第50章 再定義会議
白い会議室。
壁一面のモニターに、数値が並んでいる。
D-Index推移グラフ。
自律行動ログ。
補正未実行個体一覧。
「対象は五名」
低い声が響く。
「逸脱指数最大値06。現在は平均04」
別の声。
「しかし暴走はゼロ。外部影響も確認されていません」
モニターに映るのは、
ユウたちの恐竜の映像。
円を描く個体。
色を守る個体。
干渉せずに芽を安定させた記録。
「逸脱=危険という式が成立しない例が出ています」
資料が切り替わる。
《安定型個体差:仮称》
「問題は」
年配の管理者が言う。
「前提が崩れたことです」
D-Indexは、危険値として設計された。
05を超えれば補正。
それがルールだった。
「だが、今回05でも危険は発生していない」
「むしろ、補正未実行の方が安定しているケースがある」
沈黙。
「再定義が必要です」
若い研究員が言う。
「D-Indexを“危険値”として扱うのをやめる」
「では何とする?」
少しの間。
モニターには、恐竜が静かに息をしている映像。
攻撃しない。
暴れない。
ただ、違う。
「個体差指数」
「……多様性指数」
「まだ早い」
反対の声。
「安全を軽視することになる」
「違います」
若い研究員が首を振る。
「安全を守るために、違いを消すのではなく」
「違いを理解する段階に入ったということです」
資料が切り替わる。
《補正未実行群:安定率98.7%》
数字が、静かに主張する。
「強制再初期化の即時実行は停止」
年配の管理者が言う。
「ただし監視は継続」
全員がうなずく。
完全な合意ではない。
だが、前進。
決定事項が表示される。
《強制補正一時停止》
《D-Index評価基準 再検討》
《観察ログ継続》
会議は終わる。
だが、世界のルールは少しだけ変わった。
――同時刻。
校庭。
ユウたちは何も知らない。
ただ、恐竜と向き合っている。
ユウのデバイスが、小さく震える。
通知。
《強制補正機能:停止中》
「……止まった?」
アヤが画面を見る。
同じ通知。
ケンタも。
標準化された彼の恐竜も、静かに瞬く。
「……消されない」
ミホが小さく言う。
恐竜たちが、それぞれ違う色で並ぶ。
均一ではない。
だが、暴れない。
ユウは空を見上げる。
「測られてるのは、変わらない」
「でも――」
恐竜が隣に立つ。
色は、濃いまま。
「消されない」
遠くで、風が吹く。
円を描くように、静かに。
世界はまだ監視している。
完全に自由ではない。
だが、強制は止まった。
D-Indexは画面に残っている。
だがその意味は、揺らぎ始めた。




