第48章 選択ログ
朝のホームルーム。
前方モニターに、新たな通知が表示された。
『逸脱指数(D-Index)が03以上の個体を保有するリンクユーザーは、本日中に選択を行ってください』
教室がざわつく。
ユウの画面。
《D-Index:04》
緑は、昨日よりも深い。
通知の続き。
『選択肢A:標準化プログラム適用(指数を00へ補正)
選択肢B:観察継続(指数推移を記録)』
「……選ばせるんだ」
アヤが小さく言う。
「Aなら安全」
ケンタが言う。
「Bなら……わからない」
先生が前に立つ。
「これは罰ではありません。管理側は、危険性を判断するためのデータを求めています」
「どちらも正しい選択です」
だが。
空気は重い。
ユウは画面を見つめる。
恐竜が、静かにこちらを見上げる。
何も言わない。
提案も出ない。
「どうしたい?」
ユウが問う。
恐竜は、小さく瞬く。
色が揺れる。
濃い緑。
森の色。
ケンタの画面。
《D-Index:03》
「俺は……Aにする」
静かな声。
「消えるの、嫌だけど……消えない保証もない」
アヤは迷っている。
ミホも。
リョウは無言。
ユウの指が、画面に触れる。
A。
B。
どちらも、簡単に押せる。
ふと、思い出す。
沈黙の章。
干渉しなかった時間。
恐竜が、何もせず芽を守ったあの日。
「……観察する」
ユウが言う。
Bを選択。
画面が変わる。
《観察ログ開始》
数値が表示される。
色の変化。
行動パターン。
自律率。
恐竜が、一歩近づく。
色が、少しだけ明るくなる。
「俺も……Bだ」
リョウが言う。
「測られるなら、最後まで見せる」
アヤが息を吸う。
「……私も」
ケンタは、画面を見つめる。
Aのまま。
指が震える。
「ごめん」
そう言って、Aを押す。
彼の恐竜の色が、ゆっくり薄れていく。
緑が消える。
標準色へ。
指数が00になる。
ケンタは、目を逸らす。
「……安全だ」
そう言うが、声は小さい。
一方。
Bを選んだ者たちの画面。
指数がわずかに揺れる。
《04 → 05》
赤くはならない。
ただ、記録される。
モニターに表示。
『観察対象:5名』
管理側は、見ている。
だが、強制はしない。
まだ。
放課後。
校庭。
Bを選んだ恐竜たちが並ぶ。
色は違う。
揺らぎも違う。
「怖くない?」
ミホが言う。
「怖い」
ユウは正直に答える。
「でも、消す方がもっと怖い」
恐竜が、静かに鳴く。
それは、暴走ではない。
威嚇でもない。
ただの存在音。
遠くで。
標準化された恐竜が歩く。
安定している。
均一。
安全。
どちらも、間違いではない。
だが、世界は分かれ始めた。
デバイスに新たな表示。
《選択ログ保存》
今日の選択は、
消えない。
夕陽の中。
ユウは、恐竜の頭に触れる。
「一緒に、測られよう」
恐竜の色が、
さらに深くなる。
指数が、ゆっくりと動く。
《05 → 06》
赤ではない。
ただ、記録。
世界は、
まだ判断していない。
だが、人間は選んだ。
安全か、個性か。
そして選択は、
ログとして残る。




