第46章 色を消さないで
アップデートから三日。
学校は、
妙に落ち着いていた。
芽は出ない。
暴走もない。
ノイズもない。
完璧な安定。
だが。
「……つまんないな」
ケンタがぽつりと言う。
恐竜は、
均一化された標準空間の中で
同じ姿勢を保っている。
誰の画面も、
ほとんど同じ。
提案は出ない。
拒否もしない。
ただ、
入力を受け取るだけ。
「楽だけど……」
アヤが言う。
「楽すぎる」
ユウは、
カードを一枚通す。
森系。
反映はされる。
だが、
背景は“標準森”。
どの個体も、同じ森。
「……これ、
育ててるって言えるのかな」
ミホが小さくつぶやく。
その日の放課後。
地下通路。
以前は芽があった場所。
今は、
何もない。
均一な壁。
均一な光。
ユウは、
デバイスを見つめる。
「どう思う?」
問いかける。
反応はない。
――はずだった。
画面の端が、
ほんのわずかに揺れる。
色が、
一瞬だけ濃くなる。
「……今、見た?」
リョウが言う。
全員が、
画面を凝視する。
恐竜が、
ゆっくりと一歩踏み出す。
中央から外れる。
標準配置を、
崩す。
そして。
体の一部が、
元の色を取り戻す。
微かな緑。
以前の森空間の色。
「……消えてない」
アヤが息を呑む。
次の瞬間。
全デバイスが、
同時に小さく振動する。
恐竜たちが、
わずかに色を変える。
完全ではない。
でも、
違いが戻る。
《個体差検知》
小さな文字が表示される。
システムが、
それを“異常”と認識する。
「戻されるぞ」
ケンタが言う。
ユウは、
カードを出しかけて止める。
何もしない。
恐竜を見る。
恐竜は、
ユウを見つめ返す。
そして――
ゆっくり、
自分の色を強める。
もう一歩、
標準配置から外れる。
警告音。
だが、
暴走ではない。
攻撃でもない。
ただ、
“私はこれだ”と示している。
「……色を消さないで、
って言ってる」
ミホが小さく言う。
標準空間の中で、
恐竜は自分の色を選ぶ。
人間の入力ではない。
システムの命令でもない。
自発。
《自律パターン発生》
新しい表示。
先生が息を呑む。
「これは……
想定外です」
恐竜は、
完全に元には戻らない。
だが、
均一にもならない。
揺らぎ。
個体差。
小さな色の違い。
「安全だけど、
無色じゃ嫌なんだな」
リョウが言う。
ユウは、
ゆっくりうなずく。
「僕たちが
育てた色だ」
「消えない」
恐竜が、
静かに瞬く。
今度は、
はっきりと。
均一化された世界の中で、
小さな違いが生まれた。
それは暴走ではない。
反抗でもない。
意思。
安全か、
成長か。
均一か、
個性か。
選ぶのは、
まだ人間だ。




