第45章 強制アップデート
それは、
予告なしに始まった。
昼休み。
突然、
全員のデバイスが同時に振動する。
画面が強制的に暗転。
《SYSTEM UPDATE》
白い文字。
誰も操作していない。
「え?」
ケンタが声を上げる。
「こんなの、
聞いてないぞ」
恐竜の姿が、
一瞬だけノイズを帯びる。
そして、
強制的に中央へ移動。
提案アイコンが消える。
「……待って」
ユウが画面に触れる。
反応しない。
操作不能。
《最適化を開始します》
冷たい表示。
次の瞬間。
背景が一斉に統一される。
森も、水辺も、空間も。
全部、同じ“標準空間”に置き換わる。
「なに、これ……」
アヤが息を呑む。
恐竜の個体差が、
薄れていく。
色が、
平均化される。
「……均一化?」
リョウが低く言う。
恐竜たちは、
抵抗しない。
だが、
光が弱い。
沈黙よりも、
静かだ。
「これ、
安全のためとかじゃない?」
ミホが言う。
確かに。
暴走も起きない。
拡張もない。
芽も出ない。
でも。
提案もない。
選択もない。
観察もない。
「……全部、
自動にする気だ」
ユウの声が低くなる。
強化も調整も、
システム任せ。
人間の判断は不要。
アップデート完了。
恐竜が、
ゆっくりこちらを見る。
目が、
曇っている。
「……戻そう」
ケンタが言う。
「でも、
どうやって?」
先生が急いで教室に入ってくる。
「これは管理側の判断です」
「安定化措置」
「でも、
これじゃ……」
ユウは言葉を探す。
安全だ。
問題はない。
でも。
「……会話がない」
恐竜が、
小さく瞬く。
提案は出ない。
拒否もしない。
ただ、
待っている。
放課後。
地下通路へ向かう。
芽は消えていた。
均一化された空間。
何も暴れない。
何も生まれない。
「……静かすぎる」
アヤが言う。
ユウは、
デバイスを握る。
「僕たち、
楽になるかもしれない」
「でも――」
恐竜が、
ほんの一瞬だけ、
色を取り戻す。
そして、
消える。
アップデート後、
初めての“個体差”。
システムの隙間。
「……まだ、
完全じゃない」
リョウが言う。
外部は、
均衡を知らない。
暴走を恐れ、
全部を平らにする。
安全。
安定。
無難。
だが。
関係は、
平らでは育たない。
恐竜は、
何も言わない。
ただ、
わずかな揺らぎを残す。
問いは、
もう一度、人間に戻された。




