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第44章  ためされる側

 翌朝。


 ユウのデバイスは、

 静かすぎるほど静かだった。


 光らない。

 提案もない。


 ただ、

 恐竜がじっとこちらを見ている。


「……怒ってる?」


 アヤが小さく言う。


 ユウは首を振る。


「違う」


「待ってる」


 授業中。


 突然、

 デバイスが一斉に起動した。


 誰も触っていない。


 恐竜たちが、

 画面の端へ歩いていく。


 そして――


 何も表示されない。


 提案アイコンも、

 選択肢も。


「……え?」


 ケンタが慌ててカードを取り出す。


 森系を近づける。


 反応なし。


 空間拡張。


 無反応。


 恐竜は、

 ただこちらを見ている。


 静かに。


 選ばせない。


「……これ」


 リョウが気づく。


「向こうが、

 何も出さないってことか」


 先生も、

 珍しく困惑していた。


「初めてですね」


「入力拒否ではない」


「提案拒否でもない」


「……沈黙です」


 放課後。


 校庭。


 ユウはデバイスを握る。


「どうしたい?」


 問いかける。


 恐竜は、

 ゆっくり背を向ける。


 そして、

 何もない空間に座る。


「何も、

 しないってこと?」


 ミホがつぶやく。


 その時。


 地面に、

 小さな芽が一つだけ現れた。


 倉庫で見たようなもの。


 だが今回は、

 光らない。


「……触るな」


 ユウが言う。


 誰もカードを出さない。


 恐竜も、

 動かない。


 数分。


 沈黙。


 芽は、

 自然に揺れる。


 少しずつ、

 形を整える。


 光は、

 自分で強くなる。


「……干渉しないと、

 こうなるのか」


 アヤが言う。


 恐竜が、

 初めてゆっくり振り向く。


 目が合う。


 デバイスに、

 淡い表示が出る。


 《観察》


「……試してる」


 ユウが小さく言う。


「僕たちが、

 触らずにいられるか」


 ケンタが、

 カードを握りしめる。


 でも、

 通さない。


 ミホも、

 ただ見守る。


 芽は、

 安定した。


 暴れない。


 広がらない。


 ただ、

 そこにある。


 恐竜が、

 ゆっくり近づく。


 鼻先で芽を触れる。


 優しい光。


 それだけ。


 デバイスが、

 小さく点滅する。


 提案でも、

 命令でもない。


 ――承認。


「……僕たちを、

 試したんだな」


 ユウが言う。


 恐竜は、

 静かに瞬く。


 昨日、

 人間は“意図的に崩した”。


 今日は、

 恐竜が“何もしない”を提示した。


 干渉しない勇気。


 増やさない選択。


 リンクは、

 力の交換ではない。


 試し合いでもない。


 信頼の確認。


 恐竜は、

 人間に問いを投げた。


「触らないでいられるか?」


 そして人間は、

 初めてそれに応えた。


 関係は、

 さらに対等になる。


 試す側と、

 試される側は、

 もう分かれていない。

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