第42章 足しすぎた場所
地下通路を出たあとも、
空気は重かった。
暴走は止まった。
だが、消えたわけではない。
芽の一部は、
まだ微かに不安定な光を放っている。
「……あれ、自然発生かな」
ケンタが言う。
誰も、すぐには答えない。
ユウは、
デバイスのログを開いた。
芽が急増し始めた時間帯。
――三日前。
「三日前って……」
アヤが顔を上げる。
「学校全体で、
空間拡張イベントやった日じゃない?」
思い出す。
みんなでカードを持ち寄り、
一斉にスキャンした。
“広がれ”と。
リョウが、
静かに言う。
「空間、広げすぎた?」
ユウの胸が、
少し締めつけられる。
あの日、
恐竜たちは嬉しそうだった。
空間は広がり、
背景は鮮やかになった。
でも――
「……余白ができすぎた?」
ミホが小さく言う。
「そこに、
芽が増えた」
デバイスが、
小さく震える。
恐竜は、
否定しない。
責めない。
ただ、
静かに見ている。
「俺たちが……
作った?」
ケンタの声は、
いつもより低い。
先生のもとへ行き、
ログを見せる。
先生は、
深く息を吐いた。
「可能性はあります」
「空間を広げれば、
余白が生まれる」
「余白には、
何かが入り込む」
「でも、
悪いことじゃないですよね?」
アヤが聞く。
先生は、
首を横に振る。
「善悪ではありません」
「調整不足です」
ユウは、
地下通路の光景を思い出す。
暴れていた芽。
苦しそうだった。
まるで、
場所が合わないと叫んでいるように。
「広げたなら、
整えないといけない」
ユウが言う。
恐竜が、
静かに瞬く。
放課後。
四人は再び地下へ向かう。
今度は、
増やすためではない。
整えるため。
空間拡張ではなく、
限定カードを選ぶ。
範囲を狭める。
密度を調整する。
ゆっくり、一枚ずつ。
芽の光が、
穏やかに変わる。
暴れない。
広がらない。
呼吸するように、
一定のリズムを刻む。
「……落ち着いた」
ミホがほっと息をつく。
恐竜は、
地下通路の中央に立ち、
静かに見守っている。
「俺たち、
ずっと“増やす”ことばっか考えてたな」
ケンタが言う。
強く。広く。多く。
でも。
「足すだけじゃ、
バランスは取れない」
リョウが続ける。
ユウは、
デバイスを見つめる。
「恐竜は、
ずっと教えてたんだ」
拒否も、要求も、提案も。
全部、
バランスの話だった。
地下通路の奥。
残っていた最後の乱れが、
静かに整う。
完全ではない。
でも、
安定している。
恐竜が、
ユウを見上げる。
問いはない。
命令もない。
ただ、
確認。
「……今度は、
ちゃんと考える」
ユウは、小さく言う。
恐竜が、
静かに瞬いた。
敵はいなかった。
暴走も、
侵略もない。
ただ――
足しすぎた。
広げすぎた。
考えなかった。
リンクは、
力ではない。
責任だ。
そして、
選び続けることだ。




