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第4話  大人に見せてはいけないもの

 隠せている、と思っていた。

 少なくとも――昨日までは。


 朝食のテーブルで、ユウは箸を持つ手に力が入らなかった。

 昨夜のデジタル障害はニュースになっている。


『――一部地域で信号機の制御異常が発生しましたが、現在は復旧しています』


 テレビ画面の端に、

 ノイズが一瞬だけ走る。


 ユウの足元で、

 あの恐竜が小さく身じろぎした。


「……っ」


 咄嗟に、椅子を引いて足で影を隠す。


「ユウ?」


 母の声に、心臓が跳ねた。


「な、なに?」


「昨日から、スマホの調子悪くない?

 お母さんのも、会社で変だったのよ」


「……知らない」


 嘘だった。

 でも、言えるはずがない。


 恐竜が原因ですなんて。


 そのとき、

 父のスマートウォッチが突然、警告音を鳴らした。


 《心拍異常検知》


「え?」


 父が慌てて腕を見る。


「……壊れたか?」


 ユウは、凍りついた。


 恐竜が、

 小さく唸っている。


 空気が、わずかにざわつく。

 目に見えないノイズが、部屋を満たす感覚。


『警告。

 周辺デジタル干渉、上昇』


(まずい……!)


 ユウは、膝で恐竜を押さえた。


「ちょっと、ユウ?

 今、何か音しなかった?」


「……なにも」


 だが、

 テレビの画面が一瞬だけ歪む。


 父と母が同時に画面を見る。


 ――誤魔化せない。


 ユウは、食卓の下に手を伸ばし、

 そっとデバイスを起動した。


 ピッ。


『安定化補助、開始』


 恐竜の震えが、少しだけ収まる。


 だが、完全には止まらない。


 母が、ユウをじっと見た。


「……ユウ。

 最近、何か隠してない?」


 その言葉が、

 胸に突き刺さる。


 ユウは、視線を落とした。


 言えば、楽になる。

 でも、言ったら――


「……大丈夫」


 声が、震えた。


 母はそれ以上追及しなかった。

 だが、納得していない顔だった。


 学校へ向かう途中、

 ユウのスマホが鳴る。


【ミサキ】

 《うち、完全にバレた》

 《お母さん、停電の原因で騒いでる》

 《“それ、何?”って聞かれて……》


 指が、止まる。


 《どうしたの?》


 数秒後、返信。


 《見せた》

 《……怒られた》

 《でも、隠してるよりヤバかった》


 ユウは、足を止めた。


 公園の隅。

 人のいない場所。


 恐竜を、そっと地面に下ろす。


 恐竜は、ユウを見上げた。


 信頼。

 無邪気さ。


 でもその奥に、

 世界を壊せる力が眠っている。


「……なあ」


 ユウは、小さく呟いた。


「これ、

 俺たちだけで、どうにかできると思う?」


 恐竜は答えない。

 ただ、尻尾を揺らす。


『育成者心理状態、不安定』


 デバイスの表示が、冷たい。


 ユウは、空を見上げた。


 大人に知られれば、

 取り上げられるかもしれない。


 研究対象にされるかもしれない。


 でも――

 隠し続けて、街が壊れたら?


 その日の放課後。

 校門の前に、見慣れない車が止まっていた。


 黒いバン。

 アンテナ。

 ロゴのない制服。


 教師と話している、大人たち。


 ユウのデバイスが、

 微かに震えた。


『未登録データ波、検出』


 ――もう、

 子どもだけの問題じゃない。


 そう悟った瞬間だった。

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