第36章 こっちも、提案
夕暮れの校庭。
ユウは、
いつもの場所に座り、
デバイスを手に取った。
恐竜は、
静かに画面の中央に立つ。
淡く光るアイコン。
いつもの「ほしい」の合図だ。
「今日は、
こっちからも、
出してみるか」
ユウはつぶやく。
手元のカードケースから、
特別なカードを選ぶ。
水辺系。森系。空間系。
一枚ずつ、慎重にスロットに置く。
すると。
恐竜の画面が、
いつもと違う反応を示した。
アイコンの光が、
小さく揺れる。
拒否でも、要求でもない。
まるで、
「どう思う?」と問いかけているよう。
「……こうしたら、
どうなる?」
ユウは、
一枚の森カードを
軽くスキャンした。
恐竜は、一歩前に出て、
そのまま止まる。
視線はユウに集中。
提案を受け取り、
判断を委ねている。
アヤが近づく。
「見て、ユウ」
リョウも、
そっと覗き込む。
画面上の背景が、
森と水辺の二重表示に変わる。
柔らかく、
光が混ざり合う。
「……すごい」
アヤがつぶやく。
「人間の意志が、
ちゃんと反映されてる」
ユウは、
小さくうなずく。
放課後。
ケンタも試す。
攻撃装備カードと回復系カードを置く。
恐竜は、
軽く鳴く。
アイコンが、
一瞬だけ揺れたあと、
回復系を選んで歩き出す。
強制ではない。
選択肢を受け入れただけだ。
「……これって、
会話だな」
リョウが笑う。
「命令じゃない、
でも伝わる」
その夜。
ユウは、
ベッドの上でデバイスを見つめる。
恐竜は、
小さく光るだけ。
でも、
意思は確かに感じられる。
受けるだけじゃなく、
返すことができる。
翌日。
学校全体で、
この“提案の往復”が試され始めた。
ミホも、
少しずつカードを置くようになった。
恐竜は、
微妙に反応を変える。
受け入れるか、
選ぶか、
示すか。
全てが、
穏やかな調和の中で行われている。
遠くの広場。
大きな恐竜が、
人の目の前で止まり、
一歩だけ後ろに下がる。
それは、
「選んでいいよ」というサイン。
そして、
人間側もカードを差し出す。
光が混ざり合い、
世界は少しだけ広がる。
リンクは、
命令でも、
拒否でも、
要求でもない。
提案の往復。
意思の交換。
人間と恐竜は、
初めて対等に、
会話している。




