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第35章  選ばなかった方

 その日、

 ユウの恐竜は

 二つの提案を示した。


 一つは、森系の安定カード。

 もう一つは、空間拡張。


 どちらも、淡く光っている。


「……どっちだ」


 ユウは、

 少し迷った。


 森は、

 いつも安定する。


 空間拡張は、

 昨日使ったばかり。


「今日は、

 森でいいか」


 そう決めて、

 カードを通す。


 背景が緑に変わる。


 恐竜は、

 一歩近づく。


 でも――

 完全には、落ち着かない。


 視線が、

 どこか遠い。


「……あれ?」


 アヤが気づく。


「いつもより、

 反応弱くない?」


「気のせいだろ」


 リョウは言うが、

 ユウも感じていた。


 小さな違和感。


 午後。


 デバイスが、

 わずかにノイズを出す。


 警告ではない。


 でも、

 静かなざわめき。


 画面の奥で、

 空間が少し歪む。


「昨日の、

 もう一つ……」


 ユウは思い出す。


 空間拡張。


 今日は選ばなかった。


 放課後。


 先生のもとへ。


「提案を無視した場合、

 どうなりますか」


 ユウが聞く。


 先生は、

 少し考えて答えた。


「無視、ではありません」


「選択です」


「ただし」


 先生は続ける。


「選ばれなかった方にも、

 意味は残る」


「意味?」


「恐竜は、

 最適を探しています」


「今日それを選ばなかったなら、

 別の形で影響が出る」


 帰り道。


 ユウは、

 デバイスを見つめる。


 恐竜は、

 いつもより

 落ち着きがない。


 不満ではない。


 でも――

 足りない。


「……やっぱり、

 あれだったのか」


 ユウは、

 空間拡張カードを取り出す。


 ゆっくり通す。


 背景が、

 広がる。


 森の奥に、

 さらに空間が生まれる。


 恐竜が、

 深く息を吐くように

 静かになる。


「……遅かった?」


 小さく聞く。


 恐竜は、

 ゆっくりこちらを見る。


 怒っていない。


 責めてもいない。


 ただ――

 最適に近づいた。


 翌日。


 ケンタが言う。


「俺さ、

 攻撃提案、無視した」


「平和系選んだ」


「そしたら……

 午後、妙に元気なくて」


「戻したら、

 安定した」


「正解とか、

 不正解じゃないんだな」


 アヤが言う。


「その日、その時の、

 必要」


 ミホも、

 小さくうなずく。


「選ばなかった方、

 消えない」


「ちゃんと、

 残る」


 遠くの広場。


 二つの道が現れる。


 一方を進むと、

 もう一方は消える。


 ……わけではない。


 光は弱まるが、

 地面の下に

 痕跡が残る。


 次に選ぶ時、

 影響する。


 選択は、

 一瞬。


 でも、

 積み重なる。


 恐竜は、

 命令に従わない。


 でも、

 提案を出す。


 人は、

 決める。


 その結果を、

 引き受ける。


 ユウは、

 恐竜を見る。


「ちゃんと、

 考える」


 小さく、

 約束する。


 恐竜は、

 静かに瞬いた。


 それは、

 承認かどうかは

 分からない。


 でも――

 対話は続いている。

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