第34章 こっちがいい
その変化は、
さりげなく始まった。
ユウの恐竜が、
カードスロットの表示を
一瞬だけ変えたのだ。
いつもは空白の部分に、
淡いマーク。
森の葉に似た形。
「……選択肢、出てる?」
アヤが覗き込む。
ユウは、
まだ何も通していない。
恐竜は、
画面の中央で
じっとこちらを見ている。
逃げない。
求めない。
ただ――
示している。
「これ……
向こうからの提案?」
リョウが呟く。
ユウは、
森系カードと、
水辺系カードを
並べてみる。
すると。
森カードに、
淡い光。
水辺は、
反応なし。
「……こっちがいい、
って?」
ユウは、
森カードを
一枚だけ通す。
画面の背景が、
柔らかい緑に変わる。
恐竜が、
満足そうに
目を細める。
翌日。
同じ現象が、
複数確認された。
「うちの、
攻撃装備の前で
暗くなる」
「回復系を近づけたら、
光った」
「順番も指定してくる」
教室は、
ざわめきと興奮で満ちる。
「完全に……
会話だな」
リョウが言う。
「言葉じゃないけど」
アヤがうなずく。
「選択肢の提示」
先生も、
深く息を吐いた。
「ここまで来ましたか」
「提案型インターフェース……」
「想定外ですが、
自然な進化です」
「自然って……」
ユウが聞く。
「デジタルなのに?」
先生は、
少しだけ笑った。
「デジタルでも、
関係は自然に育ちます」
放課後。
ケンタが、
静かにカードを並べていた。
前みたいに、
連続スキャンはしない。
恐竜の画面を見つめる。
数秒。
小さく、
光るカードがある。
「……これ、か」
通す。
安定。
ケンタは、
ほっと息を吐く。
「分かると、
楽だな」
ミホも、
少しずつ慣れてきた。
「前は、
何あげればいいか
分からなかった」
「今は……
一緒に選んでる感じ」
恐竜は、
以前より近い。
距離は、
前より短い。
その夜。
ユウは、
何も並べずに
デバイスを見つめた。
「今日は、
どうする」
問いかける。
数秒後。
画面の端に、
小さな空間拡張マーク。
珍しい。
あまり使わない種類。
「……外、
広くしたいのか」
ユウは、
そのカードを
一枚だけ通す。
背景が広がる。
恐竜が、
ゆっくり歩き出す。
満足そうに。
遠くの広場。
大きな恐竜が、
人の前に立ち、
地面を軽く叩く。
そこに、
二つの道が現れる。
どちらも進める。
でも――
一方だけ、
光る。
選ばせるのではなく、
示している。
リンクは、
命令から始まった。
拒否を経て、
要求へ。
そして今――
提案。
対話は、
もう成立している。
恐竜は、
従わない。
支配しない。
ただ、
選択肢を差し出す。
「こっちがいい」と。
その先を決めるのは、
まだ――
人間だ。




