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第33章  それ、あげすぎ

 恐竜が「ほしい」と示すようになってから、

 教室の空気は少し変わった。


 カードケースが、

 前より厚い。


 交換も増えた。


「森系、持ってない?」

「水辺二枚出すから、空間くれ」


 まるで、

 餌を探すみたいに。


 ケンタは、

 特に必死だった。


「欲しがってるなら、

 全部やればいいだろ」


 そう言って、

 次々にカードを通す。


 自然。強化。拡張。補助。


 連続スキャン。


「ちょっと、

 多くない?」


 アヤが止める。


「足りないより、

 マシだろ」


 ケンタは、

 画面から目を離さない。


 恐竜は――

 一瞬、静かになった。


 でも。


 次の瞬間、

 強く光る。


 警告ではない。


 でも、

 明らかに不安定。


 背景が、

 高速で切り替わる。


 森。水辺。岩場。空。


 混ざる。


「止めろ!」


 ユウが叫ぶ。


 ケンタは、

 はっとして

 手を止める。


 画面の恐竜が、

 その場で動かなくなる。


 そして――

 小さく、震える。


「……与えすぎ」


 リョウが、

 低く言う。


「欲しがってたのに……」


 ケンタの声が、

 揺れる。


 先生の元へ。


 端末で解析。


「要求は、

 “量”ではありません」


 先生が言う。


「適合です」


「合わないものを重ねれば、

 ノイズになる」


「じゃあ、

 どうすればいいんですか」


 ケンタは、

 珍しく弱い声だった。


「観察すること」


 先生は即答した。


「求めているのは、

 種類か、頻度か、環境か」


「焦りは、

 ズレを生みます」


 放課後。


 ケンタは、

 一人で座っていた。


 デバイスは、

 静かだ。


 恐竜は、

 画面の奥にいる。


 距離が、

 できている。


「……強くなってほしかっただけ」


 誰に言うでもなく、

 呟く。


「喜ぶと思った」


 ユウが、

 隣に座る。


「喜ばせたい、

 と」


「支配したい、

 は違う」


 ケンタは、

 顔をしかめる。


「そんなつもりじゃ……」


「分かってる」


 ユウは、

 静かに言う。


「でも、

 応えすぎるのも、

 押しつけだ」


 その時。


 ケンタのデバイスが、

 小さく点滅する。


 前とは違う。


 控えめな光。


 恐竜が、

 一歩だけ近づく。


「……一個だけ、

 試せ」


 ユウが言う。


 ケンタは、

 深呼吸してから

 一枚だけ選ぶ。


 森系。


 前に、

 一番反応が良かったもの。


 スキャン。


 光は、

 穏やか。


 恐竜が、

 ゆっくり座る。


 背景は森のまま、

 安定する。


「……これか」


 ケンタの声が、

 少しだけ戻る。


「全部じゃなくて、

 一つ」


 遠くの広場。


 大きな恐竜が、

 過剰に重ねられた装備を

 一つずつ落としていく。


 残ったのは、

 本当に必要な一つだけ。


 それで、

 十分だった。


 求められると、

 人は不安になる。


 足りないかもしれないと。


 だから、

 足し続ける。


 でも――

 関係は、

 量では測れない。


 恐竜は、

 教え始めている。


 “ちょうどいい”

 ということを。

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