第32章 ほしい、という合図
最初は、
小さな違和感だった。
ユウのデバイスが、
いつもより頻繁に
点滅する。
通知ではない。
警告でもない。
ただ――
呼ぶような光。
「……何これ」
放課後、
フェンスの近く。
恐竜は、
画面の端から端へ
ゆっくり歩いている。
落ち着かない。
でも、
暴れてはいない。
「装備、
拒否?」
リョウが聞く。
「違う」
ユウは、
首を振る。
「なんか……
探してる」
その時。
画面の隅に、
小さなアイコンが現れた。
見慣れない表示。
「これ……
前あった?」
アヤが身を乗り出す。
ユウは、
操作しない。
しばらく待つ。
恐竜が、
アイコンの方向を
見る。
そして――
軽く鳴いた。
音は小さい。
でも、
確かに意志がある。
「……ほしい、
ってこと?」
アヤが呟く。
ユウは、
ゆっくりバッグを開けた。
カードケース。
最近使っていない
自然系のカードがある。
試しに、
一枚スキャンする。
画面が、
淡く光る。
恐竜が、
一歩近づく。
そして――
落ち着いた。
点滅が、止まる。
「……要求?」
リョウの声が、
少し震える。
「選ぶだけじゃなくて……
求めてる?」
翌日。
同じ報告が、
いくつも出た。
「水辺カードを
使ったら静かになった」
「空間拡張系を
欲しがる」
「戦闘装備は、
見向きもしない」
バラバラだ。
でも、
共通している。
恐竜が、
先に反応する。
先生も、
真剣だった。
「これは……」
「適応進化の一種かもしれません」
「環境や関係性に応じて、
自ら条件を提示している」
「条件って……」
アヤが言う。
「わがまま?」
先生は、
少し笑う。
「生き物なら、
当然です」
放課後。
ユウは、
何もスキャンしなかった。
ただ、
デバイスを持つ。
恐竜が、
ゆっくりこちらを見る。
そして――
小さく鳴く。
また、
あのアイコン。
「……今日は、
何がほしい」
ユウは、
問いかける。
答えは、
表示されない。
でも。
画面の背景が、
森へ変わる。
緑が広がる。
ユウは、
自然環境系カードを
一枚だけ通した。
恐竜が、
目を細める。
静かになる。
満たされたように。
「……分かるんだな」
ユウは、
小さく笑う。
「俺じゃなくて、
自分のこと」
遠くの広場。
一体の大きな恐竜が、
地面を軽く叩く。
そこに、
小さなデータの芽が
芽吹く。
強さではない。
戦いでもない。
環境を、
求めている。
リンクは、
命令でも
所有でもない。
選び合う関係。
そして今――
求め合う関係へ。
恐竜は、
初めて
「ほしい」と
示した。
それは、
依存ではない。
生きるための、
意思だった。




