第31章 もう一度、いい?
ミホがデバイスを返してから、
一週間が過ぎた。
教室は、
前と同じようで、
どこか少し違う。
机の上に並ぶデバイスの数が、
一つ減っているだけなのに。
ミホは、
変わらず笑っていた。
給食も、
休み時間も、
いつも通り。
でも。
校庭のフェンスの近くには、
来なくなった。
放課後。
ユウたちが
いつもの場所にいると、
足音がした。
「……ねえ」
振り向くと、
ミホだった。
少しだけ、
緊張している顔。
「どうしたの?」
アヤが聞く。
ミホは、
言葉を選ぶように
ゆっくり話した。
「……やっぱり」
一度、止まる。
「ちょっとだけ、
寂しい」
リョウが、
何か言いかけてやめる。
ユウは、
黙って待った。
「いなくなって、
すっきりしたのも本当」
「でも……」
視線が、
フェンスの向こうへ向く。
「ちゃんと、
終わった感じがしない」
「終わらせたんじゃなくて、
止めただけ、
みたいな?」
ユウが言う。
ミホは、
はっとした顔で
うなずいた。
「……それ」
「戻りたいの?」
アヤが、
まっすぐ聞く。
「……分からない」
ミホは、
正直だった。
「でも、
もう一回だけ、
ちゃんと話してみたい」
「恐竜と」
翌日。
先生のところへ
四人で行った。
事情を説明する。
先生は、
すぐには答えなかった。
「リンクは、
完全解除されていません」
「段階的処理中です」
「再接続は……
可能です」
「ただし」
先生は続ける。
「前と同じとは限らない」
「選び直しになるかもしれない」
ミホは、
少しだけ
息を吸った。
「……それでも、
いいです」
放課後。
簡易室。
管理局の端末が
静かに光っている。
ミホのデバイスが、
テーブルに置かれた。
久しぶり。
画面は、
薄暗い。
「接続、
開始します」
先生の声。
画面が、
ゆっくり明るくなる。
恐竜が、
そこにいた。
少し、
遠い位置に。
「……ただいま」
ミホが、
小さく言う。
操作はしない。
命令も出さない。
ただ、
持つ。
数秒。
誰も、
息を立てない。
恐竜が、
一歩、動く。
止まる。
また、一歩。
画面の中央までは、
来ない。
でも――
前より、近い。
「……選ばれてる?」
リョウが、
小声で言う。
「分からない」
ユウは答える。
「でも……
拒否じゃない」
ミホの目に、
涙が少し浮かぶ。
「前より、
ちゃんと見てる気がする」
恐竜は、
静かだ。
でも、
視線が合っている。
「……続ける?」
先生が聞く。
ミホは、
ゆっくりうなずいた。
「今度は、
急がない」
「強くもしない」
「ただ……
ちゃんと」
その日の帰り道。
「戻るってさ」
リョウが言う。
「勇気いるな」
アヤが、
静かに笑う。
「離れるのも、
戻るのも」
ユウは、
デバイスを見る。
恐竜は、
すぐ近くにいる。
でも――
それは保証じゃない。
今日も、
選ばれているだけ。
遠くの広場。
一度離れた恐竜が、
ゆっくりと
元の方向へ戻る。
命令はない。
後悔でもない。
ただ――
もう一度、
そこに立つことを
選んだだけだ。
離れたからこそ、
見える距離。
戻ったからこそ、
分かる重さ。
リンクは、
一度切れても、
終わりじゃない。
それを、
ミホは証明した。
そして――
物語は、
次の問いへ向かい始めていた。




