第30章 離れる、という選択
最初に言い出したのは、
ミホだった。
朝の教室。
席に着く前。
「……今日で、
やめる」
声は小さい。
でも、
はっきりしていた。
「やめる?」
誰かが聞き返す。
ミホは、
デバイスを
机の上に置いた。
「恐竜、
私のこと……
選ばないから」
教室が、
一瞬だけ
静かになる。
ミホの恐竜は、
確かに最近、
距離を取っていた。
操作は、
できる。
暴走も、
しない。
でも――
近づかない。
「……それだけ?」
リョウが、
思わず聞く。
「うん」
ミホは、
うなずいた。
「無理に
続けるの、
違う気がして」
ユウは、
何も言えなかった。
“選ばれない”痛みを、
知っている。
だから――
止められない。
昼休み。
三人は、
フェンスの近くに座っていた。
「……手放すのも、
選択だよな」
アヤが言う。
「でも……
怖くないのかな」
「怖いと思う」
ユウは、
正直に答える。
「でも、
続ける方が
怖い時もある」
放課後。
ミホは、
先生のところへ
行った。
ユウたちも、
後ろから見ていた。
「……返却、
という形になります」
先生の声は、
穏やかだ。
「リンク解除は、
段階的に行います」
「急がなくていい」
ミホは、
少しだけ
安心した顔をした。
「……ありがとう」
その夜。
ユウは、
自分の恐竜を見ていた。
近い。
静か。
落ち着いている。
それが、
当たり前じゃないことを
知ってしまった。
「……ずっと一緒、
じゃなくてもいい」
そう言うのは、
簡単だ。
でも――
選ぶのは、
今じゃない。
次の日。
ミホの机には、
デバイスがなかった。
でも、
ミホは
元気だった。
少しだけ、
軽そうだった。
「……後悔、
してない?」
アヤが、
そっと聞く。
「してる」
ミホは、
笑った。
「でも……
間違いじゃない」
その日の夕方。
管理局の
車が、
校門の外に止まっていた。
返却用。
静かな作業。
誰も、
騒がない。
遠くの広場。
一体の大きな恐竜が、
立ち止まる。
そして――
別の方向へ歩き出す。
誰にも、
見送られず。
でも、
確かに
自由だった。
つながることが、
正解じゃない。
続けることも、
義務じゃない。
離れることも、
一つの答え。
それを、
誰も否定しなかった。
その世界は、
少しだけ
大人びていた。
ユウは、
デバイスを
胸に抱く。
恐竜は、
近くにいる。
でも――
それは
約束じゃない。
今日も、
選ばれているだけだ。
その重さを、
初めて
ちゃんと感じていた。




