第29章 こっちじゃない、人
最初に気づいたのは、
アヤだった。
「……ユウの恐竜、
私の時と、
反応違わない?」
放課後、
三人で集まっていた時のことだ。
ユウは、
デバイスを机に置いた。
恐竜は、
画面の中央にいる。
落ち着いている。
「……いつも、
こんな感じだけど」
アヤが、
そっと覗き込む。
「じゃあ、
ちょっと貸して」
ユウは、
少し迷ってから
デバイスを渡した。
アヤが持つ。
すると――
恐竜が、
画面の端へ
ゆっくり下がった。
「……あ」
アヤが、
小さく声を出す。
拒否ではない。
でも、
距離がある。
「俺も」
リョウが、
受け取る。
恐竜は、
さらに端へ。
視線を、
合わせない。
「……露骨だな」
リョウが、
苦笑する。
ユウが、
もう一度持つ。
恐竜は、
一歩前へ。
画面の中央。
動きが、
はっきり違う。
「……人、
見てる?」
アヤが、
真顔で言う。
その話は、
翌日には
他のクラスにも広がった。
「俺の、
弟だと動かない」
「お母さんだと、
逃げる」
「でも、
俺が持つと……」
言葉は、
どれも似ている。
昼休み。
ユウたちは、
校庭の隅にいた。
「リンクってさ」
リョウが言う。
「デバイスと
恐竜じゃなかったんだな」
「……人と、
恐竜だね」
アヤが、
静かに答える。
その時。
ケンタが、
少し荒れた声で
近づいてきた。
「……なあ」
「俺の恐竜さ」
言葉が、
途切れる。
「……俺、
選ばれてない気がする」
ユウは、
何も言えなかった。
ケンタの恐竜は、
前より静かだ。
でも――
距離がある。
「……前はさ」
ケンタが続ける。
「言うこと、
聞いてた」
「強くしたら、
喜んでる気がしてた」
「でも今は……」
「……嫌われた、
わけじゃない」
ユウは、
ゆっくり言う。
「多分……
合わなくなっただけ」
ケンタは、
苦く笑う。
「それ、
一番キツいやつ」
放課後。
先生のところに、
数人が集まっていた。
「恐竜が、
人によって
反応を変える」
報告は、
もう珍しくない。
先生は、
メモを取りながら
言った。
「リンクの定義が、
変わり始めています」
「所有ではなく」
「制御でもなく」
「関係性」
その言葉に、
教室が静まる。
「合わない組み合わせも、
出てくるでしょう」
「でも、それは失敗ではありません」
その夜。
ユウは、
デバイスを持たずに
ベッドに座った。
しばらくしてから、
そっと手に取る。
恐竜は、
すぐ近くにいる。
安心している。
「……選ばれた、
って言っていいのかな」
小さく呟く。
誇らしさより、
責任の方が
重い。
遠くの広場。
大きな恐竜の一体が、
一人の人間の前で
立ち止まる。
命令は、
出ていない。
でも、
動かない。
そこにいることを、
選んでいる。
恐竜は、
誰のものでもない。
でも、
誰といるかは
選ぶ。
それが、
はっきりしてしまった。
もう、
元には戻らない。
リンクは、
つながり直された。
対等ではない。
でも――
一方通行でもない。
その世界に、
ユウたちは
足を踏み入れていた。




