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第22章  それ、強いよね

 翌日。


 教室は、

 いつもより少しざわついていた。


 理由は、

 だいたい一つ。


「見た?

 ケンタのやつ」


「マジで速かった」


「ツノ、生えてたよな?」


 声は小さくても、

 話題ははっきりしている。


 休み時間。


 教室の後ろに、

 人だかりができていた。


 ケンタの机の上には、

 デバイス。


 画面の中で、

 恐竜が動く。


 ユウたちのより、

 一回り大きい。


 そして――

 頭に、硬そうなツノ。


「すげー……」


 誰かが、

 素直に言った。


「どうやったの?」


 ケンタは、

 ちょっと得意そうに答える。


「カード、

 三枚使った」


「攻撃系、

 重ねたら出た」


「……暴走しないの?」


 アヤが、

 少しだけ

 慎重に聞いた。


「今のとこはな」


 ケンタは、

 肩をすくめる。


「たまに

 言うこと聞かないけど」


「強いから、

 いいじゃん?」


 その言葉に、

 空気が止まった。


 ユウは、

 自分のデバイスを見た。


 画面の中で、

 小さな恐竜が

 じっとしている。


 爪は、

 まだ外せていない。


 強さだけなら、

 ケンタの方が

 ずっと上だ。


「……でもさ」


 リョウが、

 口を開く。


「それ、

 ずっと付けたままだと

 どうなるんだ?」


「知らん」


 ケンタは、

 あっさり言う。


「また

 強いカード使えば

 いいし」


 誰かが、

 笑った。


 軽い。

 悪気はない。


 でも――

 ユウの胸が、

 少しだけ

 ざらついた。


 その日の放課後。


 校庭の端。


 立ち入り禁止の

 フェンスの前。


 ユウたちは、

 静かにデバイスを見ていた。


「……あっちの方が

 楽そうだよな」


 リョウが、

 ぽつりと言う。


「強いの付けて、

 終わり」


 アヤは、

 首を振った。


「楽だけど……

 怖い」


「いつか、

 戻せなくなりそう」


 その時。


 ユウのデバイスが、

 小さく鳴った。


 恐竜が、

 こちらを見る。


 目が合う。


 逃げない。


 でも――

 近づきすぎない。


「……今のままで、

 いいよな」


 ユウは、

 自分に言い聞かせるように

 呟いた。


「時間かかっても」


 次の日。


 体育の時間。


 校庭の隅で、

 ちょっとした

 騒ぎが起きた。


「ケンタの恐竜、

 止まらない!」


 先生の声。


 皆が振り向く。


 ケンタのデバイスが、

 赤く点滅していた。


 《リンク不安定》


 画面の恐竜が、

 ツノを振り、

 激しく動く。


「ちょ、

 待てって!」


 ケンタの声が、

 焦る。


「……来た」


 アヤが、

 息を詰める。


 ユウは、

 すぐに動いた。


「ケンタ!

 解除カード、

 あるか!?」


「ない!」


 ユウは、

 一瞬だけ

 迷った。


 そして――

 自分のカードを

 差し出す。


「これ使え!」


「え……

 いいのか?」


「早く!」


 ピッ。


 カードが読み込まれる。


 画面が、

 一瞬暗転。


 恐竜の動きが、

 ぎこちなくなり、

 止まった。


 小さく、

 低い音。


 完全ではない。


 だが、

 暴走は収まった。


 しん、と

 校庭が静まる。


 ケンタは、

 しばらく

 デバイスを見つめていた。


「……ごめん」


 小さな声。


「強いの、

 楽しくて」


 ユウは、

 首を振る。


「分かる」


「でも……

 ちょっと、

 考えた方がいい」


 その日の帰り道。


 ケンタは、

 ユウたちと

 一緒に歩いていた。


「……装備ってさ」


 ぽつりと

 言う。


「付けたら、

 終わりじゃないんだな」


「うん」


 ユウは、

 頷く。


「たぶん……

 向き合い続けるやつ」


 遠くの広場で、

 大きな恐竜が

 また首を動かす。


 誰も、

 気づかない。


 今は、

 目の前の小さな選択の方が

 ずっと大事だ。


 強い方が、

 すごい。


 でも、

 考える方が、

 残る。


 その違いが、

 少しだけ

 クラスに広がり始めていた。

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