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第20章  いつも通り、少しだけ違う

 朝のチャイムは、

 ちゃんと鳴った。


 少し音がずれていた気もするけど、

 先生は何も言わない。


 だから――

 いつも通りの朝だ。


 ユウは、

 ランドセルを背負って歩いていた。


 道の角を曲がると、

 フェンスがある。


 その向こうに、

 恐竜はいない。


 昨日までは、

 確かにいたのに。


「……いなくなった?」


 思わず、

 立ち止まる。


「移動したらしいよ」


 アヤが、

 あっさり言う。


「広場の方」


「ニュースで、

 一瞬だけ言ってた」


 ニュース。

 一瞬。


 それ以上は、

 誰も気にしていない。


 学校では、

 普通に授業が始まった。


 算数。

 国語。

 理科。


 ただ一つだけ、

 違うことがある。


 机の中に――

 デジタル恐竜卵デバイスがある。


「……今日、

 孵化ゲージ進みそう」


 休み時間、

 リョウが画面を覗き込む。


 卵の中で、

 小さな影が

 もぞもぞ動いている。


「え、早くない?」


「昨日、

 バーコード読み込んだろ」


「あー……

 お菓子のやつ?」


「そう」


 アヤが、

 少し不安そうに言う。


「……あれ、

 正解だったのかな」


 その言葉に、

 三人とも黙る。


 正解かどうかは、

 結果が出ないと分からない。


 昼休み。


 校庭の隅。


 フェンスの向こうで、

 工事が止まっている。


 理由は、

 先生も知らない。


「立ち入り禁止だから、

 近づくなー」


 それだけだ。


 ユウは、

 卵デバイスを見下ろす。


 ゲージが、

 じわっと動いた。


「……来る」


 ピッ。


 短い音。


 卵の表面に、

 ヒビのような光が走る。


「うわ……!」


 リョウが、

 思わず声を上げる。


 画面の中で、

 小さな恐竜が

 ころん、と転がった。


 まだ、

 手のひらサイズ。


 丸くて、

 少し頼りない。


「……かわいい」


 アヤが、

 ほっと息を吐く。


 だが。


 次の瞬間、

 デバイスが

 微かに震えた。


 画面に、

 警告マーク。


 《リンク不安定》


「……え?」


 ユウの心臓が、

 跳ねる。


 恐竜が、

 画面の中で

 ぐるぐる回り始める。


「まずい……

 これ、

 間違えたバーコードだ」


「え、

 暴走!?」


 アヤが、

 慌てる。


 ユウは、

 すぐに別のカードを取り出した。


「落ち着け……

 前に先生が言ってた」


「正しい組み合わせなら、

 戻る」


 カードをかざす。


 ピッ。


 一瞬、

 画面が暗くなる。


 次の瞬間。


 恐竜は、

 ぴたりと止まった。


 小さく、

 きゅっと鳴く。


「……止まった」


 リョウが、

 息を吐く。


「今の……

 ちょっとヤバかったね」


 アヤが、

 デバイスを覗き込む。


「でもさ」


 ユウは、

 小さな恐竜を見る。


「完全に

 壊れたわけじゃない」


「むしろ……」


「性格、

 変わった?」


 恐竜は、

 さっきより

 警戒心が強そうだった。


 だが、

 目はちゃんと

 ユウを見ている。


 チャイムが鳴る。


「戻れー!」


 先生の声。


 三人は、

 慌てて教室へ戻った。


 世界は、

 何も変わっていない。


 授業は進み、

 給食は出て、

 放課後になる。


 帰り道。


 遠くの広場に、

 大きな影が見えた。


 恐竜だ。


 でも、

 誰も騒がない。


「……あっちの方が、

 落ち着くんだろうな」


 リョウが言う。


「うん」


 ユウは、

 手の中のデバイスを見る。


「でも……」


「こっちは、

 こっちで大変だ」


 小さな恐竜が、

 画面の中で

 ぴょん、と跳ねた。


 世界がどうなるかは、

 分からない。


 大人たちが、

 何を考えているかも。


 でも――

 今日、分かったことがある。


 間違えると、

 ちゃんと危ない。


 でも、

 考えて選べば、

 戻せる。


 そして――

 恐竜は、

 ちゃんと育つ。


 それだけで、

 今は十分だった。

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