第19章 作られた余白
結論は、
あまりにも人間らしかった。
「条件があるなら、
作ればいい」
それが、
会議の終わりに
残った言葉だった。
管理局本部。
スクリーンに映るのは、
シミュレーション。
人口密度。
電力使用量。
通信負荷。
数値を落とし、
余白を作る。
「……恐竜は、
低干渉環境に
現れる」
「なら、
最初から
そういう区域を
設計すればいい」
誰も、
極端だとは言わなかった。
理屈は、通っている。
「ゾーニング案、
提出します」
都市計画部門が、
資料を出す。
「居住制限区域」
「準自然化エリア」
「デジタル低密度帯」
言葉は、
柔らかい。
だが、
意味するところは
明確だった。
人が、
引く場所を作る。
ユウは、
その話を後から聞いた。
「……誘導するってこと?」
アヤが、
眉をひそめる。
「恐竜が来やすい場所を
用意して……
そこに、
集める?」
リョウは、
腕を組む。
「管理、だな」
「隔離より、
聞こえはいい」
ユウは、
何も言えなかった。
最初の実験区域は、
旧工業地帯だった。
すでに人は少なく、
インフラも老朽化している。
電力を落とし、
通信を制限し、
自然に近づける。
「……来ると思う?」
アヤが、
不安そうに言う。
「来なかったら?」
ユウは、
静かに答えた。
「それは……
まだ、
世界が選ばれてないってことだ」
数日後。
報告が上がった。
《微弱反応、確認》
《環境干渉率、上昇傾向》
研究員が、
声を震わせる。
「……反応してる」
「やっぱり、
条件だ」
誰かが、
安堵したように言った。
成功だ、と。
だが。
ユウは、
胸の奥が
冷えていくのを感じた。
「……違う」
小さく、
呟く。
「何が?」
アヤが聞く。
「自分から
現れたんじゃない」
「呼び水を、
撒いただけだ」
その違いを、
説明できる言葉は
なかった。
やがて、
実験区域に
一体の恐竜が現れた。
報道は、
「成功例」として扱う。
「誘導に成功」
「制御可能な兆候」
株価が動き、
投資が集まり、
計画は拡大される。
「……増えるな」
リョウが、
画面を見て言う。
「区域が」
「うん」
ユウは、
頷く。
「恐竜が増える前に、
空白が増えてる」
それは、
静かな変化だった。
人が住まない場所。
使われない街。
意味を変えられた土地。
恐竜のために
空けられた余白。
恐竜は、
現れた。
だが――
どこか、
落ち着いていない。
粒子の流れが、
不安定だ。
以前のような
「収まり」ではない。
「……合ってない」
ユウは、
確信した。
「条件は、
真似できても」
「理由までは、
再現できない」
管理局は、
気づいていない。
数字が改善しているから。
被害が出ていないから。
だが――
恐竜は、
環境に合わせているだけだ。
納得しているわけじゃない。
夜。
実験区域の恐竜が、
小さく地面を掘った。
初めての、
明確な行動。
破壊ではない。
探索だ。
だが――
そこに、
求めていたものは
なかった。
恐竜は、
顔を上げる。
空を見て、
粒子を震わせる。
ユウは、
遠くからそれを見て、
背筋が冷えた。
条件を与えれば、
満足すると思っていた。
それは、
人間の傲慢だった。
恐竜は、
まだ暴れない。
だが――
留まってもいない。
人が作った余白は、
“仮”でしかない。
その事実に、
世界が気づくのは、
もう少し先だ。
そしてその時、
恐竜は、
次の行動を選ぶ。
人が用意した外側へ。




