第18章 一体ではなかった
最初は、
偶然だと思われていた。
「特殊な個体」
「例外的なケース」
「再現性はない」
誰もが、
そう言いたがった。
管理局本部。
大型スクリーンに、
複数の地点が映し出されている。
どれも、
似たようなログ。
《未管理個体、確認》
《干渉率、局地的上昇》
《周辺人口密度、低下》
研究員の一人が、
喉を鳴らす。
「……同じ、だな」
誰も否定しなかった。
「発生地点は?」
「郊外」
「再開発前の空き地」
「人口流入が止まった区域」
共通点は、
はっきりしている。
人が減った場所。
「……つまり」
責任者が、
低くまとめる。
「恐竜は、
人を追い出しているわけじゃない」
「だが――
人がいない場所に、
現れやすい」
その言葉は、
会議室を冷やした。
ユウたちは、
まだ観測区にいた。
恐竜は、
広場で静止している。
だが、
周囲の空気は変わった。
緊張ではない。
予感だ。
「……ニュース、見た?」
リョウが、
携帯端末を見せる。
画面には、
荒い映像。
倉庫街。
人のいない港湾区域。
そこに、
別の恐竜が映っていた。
「……あれ」
アヤが、
声を落とす。
「種類、違う」
「でも……
動き、似てる」
映像の恐竜も、
暴れていない。
逃げてもいない。
ただ、
空いた場所に
“収まっている”。
コメント欄は、
荒れていた。
「危険生物」
「排除しろ」
「管理局は何をしている」
一方で。
「人がいない場所なら、
問題ないんじゃ?」
「共存できる区域を
分ければいい」
意見は割れる。
だが――
どちらも、
恐竜を基準に考え始めている。
管理局内部でも、
議論は激化していた。
「封じ込めは不可能だ」
「発生条件を
完全に制御できない」
「なら、
ゾーニングするしかない」
その言葉に、
沈黙が落ちる。
「……恐竜が
住める場所を、
最初から作る?」
「人が、
避ける前提で?」
誰も、
簡単に肯定できない。
だが――
否定もできなかった。
ユウは、
恐竜を見上げた。
「……あいつら」
「俺たちを
追いかけてきたわけじゃない」
「ただ、
同じ条件に
引き寄せられただけだ」
恐竜は、
反応しない。
だが、
その存在は明確だった。
ここにいる。
それだけで、
世界が動く。
夕方。
管理局から、
非公式な通達が出た。
《未管理個体は、
今後も増加する可能性あり》
《単体対応は、
非現実的》
その文面は、
事実上の宣言だった。
これは、
始まりにすぎない。
「……一体じゃ、
なかったんだな」
リョウが、
空を見上げる。
「うん」
ユウは、
ゆっくり頷く。
「世界の方が、
もう変わってた」
「恐竜は……
それに現れただけだ」
夜。
ニュースの最後に、
小さく報じられた。
『複数地域で、
未確認デジタル生命体を確認』
『現在、
因果関係を調査中』
その言葉を、
信じる者はいない。
因果関係は、
もう見えている。
人が密集し、
世界を最適化しすぎた。
そこに――
適応できない生命が
現れただけだ。
恐竜は、
広場で静かに呼吸している。
もう、
特別な存在じゃない。
前触れだ。
これから先、
世界は選ばされる。
人の都合で
作られた環境を、
保ち続けるのか。
それとも――
恐竜が現れる余白を
受け入れるのか。
その問いは、
まだ誰にも
答えられていなかった。




