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第15章  変わったままの朝

 朝は、来た。


 アラームは鳴り、

 カーテンの隙間から光が差し、

 人は目を覚ます。


 ただ一つだけ、

 以前と違うことがある。


 恐竜が、そこにいる。


 観測区と名付けられた住宅街。


 フェンスは残っているが、

 警告色は薄れ、

 人の出入りも制限付きで許可された。


 完全な隔離でも、

 完全な解放でもない。


 曖昧なまま、

 朝は始まる。


 ユウは、

 恐竜の近くで目を覚ました。


 恐竜は、

 昨夜と同じ姿勢で座っている。


 眠っているのか、

 起きているのか、分からない。


 ただ――

 動いていない。


 それが、

 この街の“新しい安全”だった。


 通学路を通れなくなった子どもたちは、

 遠回りをする。


 配送業者は、

 ルートを変更する。


 電力会社は、

 恐竜の周囲だけ

 旧式のアナログ機器に切り替えた。


「……慣れるもんだな」


 リョウが、

 苦笑いで言う。


「いや……」


 アヤは首を振る。


「慣れてない」

「諦めてるだけ」


 その言葉は、

 やけに静かに響いた。


 恐竜の周囲では、

 電子機器の挙動が微妙に違う。


 スマートフォンは、

 バッテリー消費が早い。


 時計は、

 一日に数秒ずれる。


 だが、

 大きな事故は起きない。


 だから――

 人は、

「問題なし」と判断する。


「……怖くないの?」


 フェンス越しに、

 小さな子どもが尋ねた。


 ユウは、

 少し考えてから答える。


「怖いよ」


「でも……」


 恐竜を見る。


 巨大で、

 理解できなくて、

 制御できない。


「怖いからって、

 消えないものもある」


 子どもは、

 分かったような、

 分からないような顔をして、

 去っていった。


 管理局の臨時拠点。


 モニターには、

 膨大なログ。


「……安定しています」


 研究員が言う。


「暴走なし」

「拡散なし」


「ただ……」


 言葉を濁す。


「制御も、できていません」


 責任者は、

 頷くだけだった。


 それ以上、

 言えることがない。


 恐竜は、

 昼になっても動かない。


 だが、

 周囲の“適応”は進む。


 風向き。

 電波の流れ。

 人の動線。


 すべてが、

 ほんの少しずつ

 恐竜を避け、

 恐竜を含んだ形に

 組み替えられていく。


 それは、

 侵略ではない。


 同居の結果だ。


「……このまま、

 ずっと?」


 アヤが、

 小さく呟く。


 ユウは、

 答えられなかった。


 恐竜は、

 ここにいる。


 理由も、

 目的も、

 説明もない。


 それでも――

 世界は、続いている。


 夕方。


 恐竜が、

 ほんの少しだけ

 首を動かした。


 それだけで、

 周囲の空気が張りつめる。


 だが、

 何も起きない。


 恐竜は、

 再び静止した。


「……今の、

 何だったんだ」


 リョウが言う。


 ユウは、

 静かに答えた。


「確認だと思う」


「……何を?」


「ここが、

 まだ“あるかどうか”」


 恐竜は、

 居場所を作った。


 だが、

 それは永遠じゃない。


 街が変われば、

 環境が変われば、

 恐竜も変わる。


 誰も、

 その先を知らない。


 だからこそ――

 今日という日常は、

 仮の形で成立している。


 夜。


 観測区の灯りが落ちる。


 静かな街。


 恐竜は、

 闇の中で輪郭を保っている。


 ユウは、

 その姿を見つめながら思う。


 これは、

 共存じゃない。


 理解でも、

 和解でもない。


 ただ――

 世界が、

 一つ余分な前提を抱えた。


 それだけだ。


 だが、

 その「一つ」が、

 これから何を変えるのか。


 誰にも、

 分からなかった。

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