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第11話  それは、外したがらなかった

 夜明け前の空は、

 色が決まらない。


 青にも、黒にもなりきれないまま、

 街の上に滲んでいた。


 ユウは、

 高架下の影で恐竜を見つめていた。


 前肢の爪。

 あの“仮想装備”は、

 まだそこにある。


 削除も、

 解除も、

 もう何度試したか分からない。


『装備構造、保持』


『理由:

 個体安定度、装備依存』


「……依存、って」


 ユウは、言葉を失う。


 恐竜は、

 静かに立っている。


 暴れていない。

 吠えてもいない。


 それなのに――

 外せない。


「……外した方が、

 楽になると思う?」


 アヤが、低い声で言った。


 彼女の恐竜は、

 装備を持っていない。


 だが、

 その分、

 落ち着きもない。


 小さなノイズが、

 常に周囲を漂っている。


「……分からない」


 ユウは、正直に答えた。


「強くも、

 便利にもなってない」


「でも、

 これがないと……」


 言葉が、続かない。


 恐竜が、

 ゆっくりと一歩前に出た。


 爪が、

 コンクリートに触れる。


 カツ、という音。


 それだけで、

 近くの自販機が

 エラー音を鳴らした。


 リョウが、

 焦ったように周囲を見る。


「……ここ、

 もう限界じゃないか?」


 その通りだった。


 恐竜がいるだけで、

 街が“合わなくなる”。


 装備があることで、

 それが早まっている。


「……一回、

 強制的に外そう」


 ユウは、決断した。


 デバイスの

 最終手段。


『強制分離、

 実行しますか』


 一瞬、

 恐竜が動いた。


 嫌がるような仕草。


 それは、

 初めてだった。


「……ごめん」


 ユウは、

 実行を押した。


 ピッ。


 音は、小さい。


 だが次の瞬間――


 恐竜が、

 大きく身を震わせた。


 爪の輪郭が、

 乱れる。


 ノイズが、

 空気を切り裂く。


『警告:

 個体ストレス、急上昇』


「……やばい、止めろ!」


 だが、

 もう遅い。


 爪が、

 完全に消えた瞬間。


 恐竜が、

 その場に崩れ落ちた。


 息が、荒い。


 周囲のデジタルが、

 不規則に点滅する。


「……戻せ、

 戻せないの?」


『再装備、

 不可能』


『装備構造、

 個体内部に再構築中』


「……は?」


 ユウの声が、震える。


 恐竜の前肢に、

 再び光が集まる。


 だが、

 さっきと違う。


 形が、歪んでいる。


 爪でも、

 牙でもない。


 不完全な構造体。


「……外されたく、

 なかったんだ」


 アヤが、呟いた。


 誰も否定できなかった。


 装備は、

 もう“道具”じゃない。


 恐竜の中で、

 役割になってしまった。


 安定のための、

 拠り所。


「……俺が、

 決めたんだ」


 ユウは、

 恐竜を抱き寄せた。


 震えが、

 少しずつ収まる。


 だが、

 完全ではない。


 そのとき。


 遠くで、

 複数の足音。


 光。


 管理局の車両だ。


「……追跡、

 来てる」


 リョウが、歯を食いしばる。


 だが、

 恐竜は立ち上がれない。


 装備は、

 支えだった。


 外したことで、

 動けなくなった。


「……逃げられない」


 ユウは、

 一瞬、迷った。


 置いていく、

 という選択。


 正しい。

 合理的。


 だが――


「……それは、

 できない」


 ユウは、

 恐竜を背負った。


 重い。


 データの重さ。

 選択の重さ。


 それでも、

 離さなかった。


 管理局のモニターに、

 新しい警告が表示される。


 《未管理個体、

 構造不安定化》


 《育成者介入により、

 状態悪化》


 誰かが、

 低く呟いた。


「……ほらな」


「人が、

 良かれと思ってやることが、

 一番危険なんだ」


 ユウは、

 息を切らしながら走った。


 恐竜は、

 腕の中で小さく鳴く。


 それは、

 助けを求める声ではない。


 拒否でも、

 服従でもない。


 ただ、

「そこにいる」という

 主張だった。


 装備は、

 もう外せない。


 だが、

 装備に頼ることも、

 正解じゃない。


 その矛盾を抱えたまま、

 ユウは走り続ける。


 この世界には、

 簡単な選択肢なんて、

 最初からなかったのだから。

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