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第1話  卵は、日常の裏側で孵る

 その日、街はいつも通りだった。

 朝の通学路、コンビニの自動ドアの音、電線に止まるカラスの鳴き声。

 ――ただ一つだけ、いつもと違うものがあった。


「……何だ、これ」


 中学一年の相羽ユウは、通学鞄の中でわずかに震える感触に足を止めた。

 昨夜、机の上にはなかったはずのもの。

 それは手のひらに収まる、灰白色の卵型デバイスだった。


 表面は滑らかだが、どこか石のような冷たさがある。

 玩具にしては重く、工業製品にしては有機的すぎた。


「……誰かのイタズラ?」


 底面に、小さなスリット。

 側面には、細いレンズのような黒い点。


 ユウが指で触れた瞬間、

 ――ピッという乾いた電子音が鳴った。


『起動確認。個体データ、未登録』


 無機質な音声。

 だが、次の瞬間。


 卵の内側で、何かが、叩いた。


 コツン、という微かな振動。

 心臓が跳ねる。


「……生きてる?」


 冗談だ、と自分に言い聞かせる。

 だが卵の表面に、淡い光のラインが走った。


『育成者を確認します』


 その言葉と同時に、ユウのスマートフォンが震え、画面が一瞬だけノイズに覆われた。


 ――ニュース速報。

 【全国各地で原因不明の電子障害】

 【動物園・博物館のデータに異常】


 そして、卵が再び鳴動する。


『初期環境データ不足。外部入力を推奨』


 意味が分からない。

 だがスリットに、コンビニのレシートが吸い込まれるように近づいた。


「え、ちょっ――」


 ピッ。


 卵が、脈打つ。


『栄養データ取得。個体反応、微弱』


 次の瞬間、卵の表面に、

 小さな爪の影が浮かび上がった。


 ユウは息を呑む。

 これは玩具じゃない。

 ゲームでも、アプリでもない。


 卵の内側から、

 確かに“何か”がこちらを見ている。


 そのとき、校舎の向こうで――

 低く、地鳴りのような音が響いた。


 悲鳴。

 割れるガラス。


 誰かが叫ぶ。


「恐竜……!?

 街に、恐竜が――!」


 ユウの手の中で、卵が強く震えた。


『警告。

 リンク未確立。

 個体、不安定化』


 ――それが、

 この世界が元の日常に戻らないと知った、最初の瞬間だった。

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