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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

乙女の花園

作者: 一ノ瀬灯

私はお姉様とお呼びさせていただいている、二学年先輩の菖蒲お姉様のことをお慕いしている。それはもちろん友愛だ。

中高一貫の女子校に入学した私は男性に免疫がなく、女性の後ろばかり歩いていたら、菖蒲お姉様が私のことを可愛がってくれたのが始まり。

その時菖蒲お姉様は既に三年生だったのど、あっという間に高校生になってしまった。

しかし、それから何度も私のことを気にかけてくれたのが嬉しかったのだ。


それから一年経ち私が高校へ上がると、賢くて容姿も美しい菖蒲お姉様は、既にファンクラブなるものができていた。

それを教えてもらっていなかったことがこんなにショックだったなんて、私は思いもしなかった。

菖蒲お姉様と会う時はいつも学舎の端にひっそりと佇む東屋で、茂みの中にある東屋は意外と知っている者は少なく、人に知られず会うには格好の場所だった。

そこでいつも菖蒲お姉様とは何度となくお話しをしていたのに。

「菖蒲お姉様には、ファンクラブなるものがありましたのね。私、それすら知りませんでした」

菖蒲お姉様とたった一年離れていただけで、校舎が違うだけで、こんなに知らないことが出てくるなんて思いもしなかった。

菖蒲お姉様は先に中学を卒業しても私にそのことを話してくれなかったことが、本当に悲しかったのだ。

はらりと一筋の涙を流し、ポケットからぴっちりとアイロンがかけられた白いハンカチを出し、そっと涙を拭う。

すると、菖蒲お姉様は私のさらりと伸びた黒髪を指先で掴んだかと思えば、髪にキスをした。

驚いて菖蒲お姉様は見ると、お姉様は恍惚とした表情で私を見ていた。お姉様のそんな艶のある顔なんて、見たことがない。

「まあ、なんて可愛い嫉妬なのかしら、椿。私のこと、そんなに知りたかったのね」

くすくす笑い、私の髪を何度も指で梳く菖蒲お姉様に、どうしようもないほどドキドキする。

どうしてこんなに胸が騒ぐのだろう。

「ねえ椿。私、どうしてあなたに教えなかったと思う?」

さっきより近い距離でそう問う菖蒲お姉様は、意地悪な質問をしてきた。

分からないから泣いてしまったというのに、今日のお姉様はいつもと違って意地悪だ。

「私をからかうため、でしょうか」

私の言葉に菖蒲お姉様は首を振り「全然違うわ、分かってないのね椿」と、楽しそうに言った。

悲しい私と楽しそうなお姉様。どうしてそんなことを言うの。

また涙が出てきたのでハンカチで拭っていると、菖蒲お姉様はそのハンカチを優しい手つきで私から奪うと、今度は形の整った唇で涙を吸い取った。

溢れる涙を舌で掬う菖蒲お姉様は、なんて破廉恥なのかしら。

「お姉様! さすがに破廉恥ですわ!」

私が顔を赤らめて、菖蒲お姉様からさっと退くと、お姉様はそれでもなおくすくすと微笑みを絶やさなかった。

「お姉様……?」

真意が分からない私は、菖蒲お姉様に聞くしかなかった。

「どうしてそんなに笑ってらっしゃるの? 先ほどのことも、その、破廉恥ですし、本日のお姉様はいつもと違います」

はっきりと言う私に、菖蒲お姉様はずいと顔を近づけた。

お姉様のまつげ、こんなに長いのね。なんて考えていると、お姉様は目を閉じた。

唇には柔らかい感触。私、菖蒲お姉様に口づけをされているのだ!

すぐに離れたお姉様は、先ほどまで触れていた私の唇を、人差し指で撫でる。

初めてのキスだったのに、触れられるその感触はくすぐったいのに、どうしてか嫌ではなかった。

菖蒲お姉様は指を離し、私の両手を取った。

「可愛い私の椿。ファンクラブなんてものがあると知ったら、私の椿は入ろうとするに決まってるじゃない。そんなのだめよ、あなたは私の後ろにいるのではなくて、隣にいなきゃ」

こうしてね、と菖蒲お姉様は私の真隣に座り直し、再び手を取ったかと思えば、恋人繋ぎをした。

「私はね、ずっと椿が欲しかったのよ。あなたが自分の気持ちに気づくのを待っていたの。椿が悲しくて泣いていたのは、私に騙されたと思ったからなのでしょう? 悪いことをしたわ、ごめんなさいね」

そう言って、菖蒲お姉様は私を優しく抱きしめて、そっと背中をぽんぽんとたたいた。幼子をあやすようなその仕草は、菖蒲お姉様の優しさの塊。

そうだ、私は菖蒲お姉様が好きだから、裏切られたように思って悲しかったのだ。自分の感情を理解できたとたん、今までの悲しさの意味が胸にすとんと落ちた。

気づいたばかりの恋心は、それこそ赤子のように幼い。

それでも、私に口づけをしてくださった菖蒲お姉様も、私と同じ気持ちなのだと思いたい。

だから、私は「お姉様……」と伏せていた顔を上げ、菖蒲お姉様の唇に許可なく触れた。

驚いた様子の菖蒲お姉様だが、私を突き飛ばしたりなどしなかった。

二人で何度も唇を寄せ合い、誰も来ない静かな東屋で、甘やかなひとときを過ごす。

「好きよ、私の椿。これからは私の隣にいなさい。分かったわね」

「はい、お姉様」


恋人同士になった私達は、万が一このことを知られてお姉様のファンクラブの方達から嫌がらせを受けないよう、秘密の恋人になった。

誰も知らない私達だけの秘密。私と菖蒲お姉様の秘密を知るものは誰もいない。

私とお姉様は、いつもの茂みに隠れる東屋で、今日も逢瀬を重ねる。










私の名前は菖蒲。毒を持つ花の名前が小さい時から好きではなかった。

中学三年生の時、二学年下の子の椿という女の子は「なんて素敵なお名前なのでしょう! 私と同じくお花の名前を持つなんて、とっても素敵です!」と褒められたことが、全てのきっかけだった。

私は毒を持つ菖蒲。少しずつ椿に毒を染み込ませ、私の元へと落としてみせる。

毒婦の菖蒲。私を揶揄する者が一部いたとしても、そんなのどうだっていい。

だって、本当に無垢な椿は私の元へと自らやってきたのだから。



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