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寝取られジョーンのヒモ生活  作者: 無夜
寝取られジョーンの人生
6/17

海に落ちたマーリオ

 大型帆船が入港した。

 とはいえ、強風なので帆は畳まれて、奴隷みたいな連中が途中から漕いでこちらに接岸させている。

 波も荒い。

 あと七日もしたら、船は入港しなくなる。

 危なすぎて。


 あちらからロープが投げ渡され、はしっこい男がそれを掴み、杭に巻き付ける。

 船が上下に相当揺れている。

「昼過ぎに、少し波が落ち着く、はずだ。夕方になったら、また荒れる。その短時間で積み荷を降ろして、出航させろ。へたすりゃ、船の底に穴が開く」

 たしかに、波が激しく、船の側面が石の陸地にたたきつけられかねない。

 揺れる船を見ているだけで、船酔いしそうだった。

 おもしろいぐらい、怖いぐらい、空の雲が走っていき、青と灰色、黒がぐちゃりぐちゃりとかき混ぜられていく。

 遠くで稲光が走っていた。

 あれは、今朝ここで暴れていた雷雲。


 陸と船をつなぐのは板だ。

 大人の男二人がすれ違える程度の。

 そして、手すりもない。

 下は海だったり、石で整備された地面だったり。

 ぐらりぐらり揺れる。

 でかい、柵のついた通路も設置されるが、それは偉い人たちが使うので、荷はこびはいつもなら使えない。

 時間がないため、船に乗り込む時にはその細い、不確かな板を跳ねるように飛び跳ねて、あちらにわたる。

 本当に危険なところは四歩程度、の長さ。

 流れは、荷はこび達が入るのは細板。

 荷物をもって港に帰ってくるときは、柵付き通路。

 船側の人足達も中の荷物を運び出し始めた。

 板は一方通行。それが一番、事故が少ない。

 荷を出し、そして在る程度以上減ったら、荷を運び入れる。


 事故は、柵のある通路で起きた。

 マーリオという男が海に転落した。

 ジョーンは見ていた。

 本来なら、ぶつからないよう等間隔で渡らなくてはいけないのに、柵があるから、太い通路だから、と、間隔を詰めてしまっていた。

 危険な、細い渡し板なら、皆、気を付けるのに。

 そして、大波でぐわんと船が上下し、大荷物を運んでいたマーリオはぐらついた。が、ベテランである。立て直した。

 のだが、背後の、距離を詰めていた若い人足は、立て直せなかった。

 荷物がすっ飛び、かろうじてバランスを保てていたマーリオにぶつかった上、人足も転んでぶつかった。

 柵は、がたいの良い男二人分の体重に負けて、ばきりっと折れ。

 あげく。

 その若い男は敏捷さはあった。いや、とっさの、本能で。

 マーリオを手で押して、その反動で自分だけ、通路に残り、マーリオは落下した。

 そのマーリオと、ジョーンは目があった。


 驚愕 と 諦観


 こんなこともあるさねえ、という。

 長くやっていれば、事故は起きる。

 見てきただろうし。

 気を付けただろうし。

 それでも。

 運悪く。


 ばしゃんっ


 水面にたたきつけられる音がした。



 ジョーンたちは波止場の端から、すぐに下の海を覗き込んだ。

「マーリオッ?」

「縄ばしご、もってこい」

「いや、船がやばい」

 波に煽られ、何かの拍子で、波止場と船の間でべしゃりと潰されかねない。

 はしっこい男がすぐに駈けていった。船がやばかろうが、マーリオが意識があれば、ここから登れるようにしなければ。冷たい海だ。もたもたしていたら、凍えて心臓が止まる。

「火を」

 ジョーンは浮いてきたマーリオを見つけた瞬間、飛び込んでいた。

「おい、まてっ」

 仲間達の制止は聞こえなかった。

 波と風の音で。

 あとは全身が痛むような海水の冷たさに。

 落ちるときに船にぶつかって頭を打ったのか、意識がないマーリオを捕まえて。

 どっちがどうだか方向を失って、それでもなんとか水面に顔を出して、この壁は船か波止場かと、悩む前に、ぐわんぐわんする頭に、声が降り注いで、梯子が垂らされる。二つ。

 一つからはするすると身軽いのが縄をもって降りてきて、

「マーリオを。縛って、上へ上げる。お前はそっちの梯子で、悪いが自力でいってくれ」

「わかっ・・・」

 声が出ない。

 マーリオの脇に縄を通すのを手伝ってから、ジョーンは陸に上がった。

 手がかじかむし、風が吹くと凍り付きそうだし、だが、上まで来ると、特に力自慢の仲間達がぐっと引き上げてくれて。

 自分が上がると、その縄梯子からほかの仲間がするっと降りて、マーリオを引き上げる手伝いをしにいった。

 船が迫ってこないように、つっかえ棒を維持している連中と。

 荷はこびの時間がないため、仕事をしている連中と。

 寒さで頭が働かない。

 ぼーっとしてしまうと、

「お前は、とっとと火に当たれっ。口をゆすいで、目も洗え。ここの水は汚いんだよ」

 と、背中をひっぱたかれた。

 生活排水が、全部ここに流れているし、停泊している船の汚物も投げ込まれる。本当は船は港を離れてから、沖で捨てる約束なのだが、守らない連中が多い。

 バケツでもってこられた真水を頭からかぶらされて、口と目を洗って。

 服は脱がされ、大布を巻かれて、倉庫の端のストーブの前に座らされて。

 いまさら、怖さで、膝が震えた。



 船主と倉庫主が、二人で来て。

「危ないことはするな。二次災害だからな」

 説教的なことを二言ぐらい言い、二日分の日当と、

「風呂屋であったまってから帰れよ。濡れた服は包んでやるから、お前に入る服は、ぼろしかない。だから返さなくて良い」

 膝と肘がすり切れていたが、それぐらいならどうってことない古着を渡され、それを着たら、胸ポケットに風呂代を入れられて今日は帰れと言われた。

 マーリオはストーブに当たっていたが、意識が戻らない。

 みんなが見ていたし、マーリオを落としたのは、船側の人足で。

 マーリオは倉庫主側に雇われていた。

 話し合いもあるだろうし。

 マーリオに保証が出ると良いな、と、とぼとぼとアパートに戻った。

 風呂に行け、と言われたのに、忘れてた。

 ただただ、カイの顔が見たくて。

 ただただ、帰りたかった。

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