保護期間の終了間近
惚れなおしたらしい。
納得すると、余計に暴れたいような落ち着かなさになるカイγーンだった。
最近、寝つきが悪い。
伯爵になってから。いや、その前夜、戦争になったときから、眠れていない。
いくら怠惰といえどもその前が眠りすぎていたのだ。なにせ、一日20時間は寝ていた。本物の猫並みである。
怠惰に生まれたが、ジョーンに付き合ってのその一周目、港町の、そして農村の、勤勉な妻であったから、働くのは苦でもないというか。今はだらけきって過ごしたので、動きたい気持ちが強い。
あとは、なんだか見られているような気配がある。
伯爵になってからだ。
新参の者の目かと思ったけれど、そういう感じでもない。
高いところから、もしくはすぐ背後から、見られている。
俯瞰視点から、まとめて見られているのに、焦点が合わされている、ような感じ。
カイγーンをではなく、魔界の意志が魔力の高い高爵位の者を確認して回っている、のだろうと結論を出したが、気持ちはよくない。
今は眠っているジョーンの横で眠れないが猫の姿でゴロゴロとしていたが、結局起きた。
最近は人型になることが増えていた。
ジョーンに付き合って、正装に馴れるためだ。
足が、人間に比べてすとんとまっすぐでないのでワンピースは楽だし、港町のアパートにいたときはロングのワンピースか、裾がだぼっとしたズボンだったので、なんとかしたが、正装は体のシルエットがわかりやすい。
それでも、人間界で人に見られてもおかしくないよう作られている。
足の裏が長い上、踵を上げて歩いているのだから、靴も特殊だ。
領地なのでワンピースでもいいかなあと思いもしたが、正装での立ち居振る舞いを忘れるので、ちゃんとした格好で外に出た。
深夜時間なので、リムとムーщは寝ている。
だが、悪魔は強欲と怠惰以外は眠りが不要なので、最低限この役所にも悪魔がいる。
前までは役所に私室があったが、今は奥の棟にジョーンとカイγーンは暮らしている。
出入りするには役所を通る。
人間界の、実家への出入り口も役所にあるので、こちらが近い。
領地も広くなったから、一応いろいろ変えたが、なんやかやと結局、眷属達は集合住宅で小型な本性で寄り集まって暮らしている。
外に出て、噴水の置かれている広場にゆくと、照明の水晶が一つ、中空で柔らかく光っていて。
眠らない悪魔達がだべっていた。
強欲なので、ボルタは眠れるが、日に四時間も眠れば十分なので、シルヴァーのお供で来ていた。
シルヴァーは珍しく白毛玉のミディーを抱えていない。
その視線を追えば、タイルで舗装された上を、前脚・右目・左耳、口吻と鼻を再生されたミディーが、浮かぶ板に下半身を載せて、走っていた。
痛覚は切断している。片目だけだが見え、片方だけだが聞こえるようになってから、壊れていたミディーは少しずつ言葉を取り戻した。
完全に治すにはもう、ミディーの生命力がなかった。悪魔の通貨を受け止める力もなく、必要最低限の再生しかしていない。
生命力が100の悪魔の生命を爆上げすれば、200や300になるが、2や3しかなければ、せいぜい5にしかならないのだ。
それに、もう寿命は尽きる頃だ。
カイγーンに与えられるのは、苦痛と恐怖のない、不自由はあるが独力で動き回れる『日常』だけ。
焚き火のように柔らかな光の中。噴水の水がきらきらしていた。
カイγーンに皆が気が付くと、すっと全員が立ち上がり、頭を下げる。それは美しく整い、元夫人の教育が行き届いていた。100人超えの使用人たちに躾をしてくれている彼女には、給金をはずんでいる。当人は教えるのが楽しくなっていて、教師として居続けてくれるそうである。
手を挙げ、声をかけて、普段通りにと命令する。
カイγーンに、座布団付きの椅子が用意される。
猫になってこの上で丸くなりたい気持ちもあるが、おとなしく人型のまま座った。
「ここのところ、眠れてないようですが」
心配そうに問われる。
まあ、わかるか、と思う。
こうもふらふら出歩いては。
「急激に魔力が上がったから、最終段階で、本能が忌避してる、のもあるみたいなんだ」
何かに見られていることは言わずに、怠惰としての性質を口にした。
ムーщは姿としても年齢としても、男爵に至れる魔力はなかった。だが、彼女は怠惰であり、人間界を行き来する時間マジックによって、ある条件に到達した。
睡眠時間66万6千時間に。
そして、彼女は男爵、それも中鉄銭を作り出せる者となり、この戦争後子爵に至った。
この睡眠時間の確保がどれぐらい大変かというと。
100年、何もせずにひたすら眠り続けて87万6千時間である(作者・眠り姫ならいけますね)。
50年しか生きられない平悪魔には到達しえない時間だった。
ちなみに、戦争前夜までのカイγーンの合計睡眠時間は、
58万6920時間
という。
最初の50年が主婦として、一日8時間ぐらいしか寝てない。
その後も、ジョーンに食事を作るのは譲れなかったし、ジョーンと戯れたかったので、一日4時間は起きていたので、こんな感じになる。
光の近くに門番のフラミンゴが居て、
「女体化どうなりそうですか?」
と、心配そうに聞いてきた。
「うーん。人間はうまくいったけれど、悪魔って、そもそも女悪魔にも子宮とかないんだよ」
「腹が大きくなりませんしね」
「あれ、人間に比べて胎児状態が小さいからじゃないんだ?」
カイγーンは悪魔も弄ってみて、こう結論した。
「女体化と少し離れるけれど、見た目的にうちの連中は防御力紙だけれど、殴る蹴る刺されるされたときの打たれ強いっていうのあるじゃないか」
「ダメージはいるけれど、ぎりぎりっで死なない的な」
と、何度も瀕死喰らった鼠。
「そうそう。うちは暴食が多くて、暴食が打たれ強いんだよ。なんでかっていうと、悪魔の大半が、拡張しない握り拳ぐらいの胃しか体内にない(だから、強欲と暴食以外は液体しか飲まないし、固形物を食べると2・3日胃もたれする)。女悪魔は人間模してるのと子種採るので、膣とかあるんだけれど、その先は、ない」
「そもそも人間の体の常識がわからない」
と、みんなが言うと。
門番が人体模型をさくっと構築した。
「こんな感じですよね」
「おお、すごい。なんかいっぱい、袋みたいなのが詰まってるのと、長いのがある」
対して悪魔のそれは、胴体のほとんどが、空というか肉と骨格でしかない。
「女悪魔が、子種採って、ないし突っ込まれて、人間で言う心臓みたいな『核』がそれの情報を読みとって、ないし取り込んで、妊娠する。格上過ぎるやつの情報を受け取ると、生まれてくる子供にぎりぎりまで生命力吸い取られるので死ぬ。核=生命力だから生命力そのものの中で、子供は20日以上かけて生まれ出る。核は体内を移動するので、刺されそうと思ったら、その場所からよける。人間は重要臓器が多すぎて、脇腹ざっくり刺されたら死ぬけれど、悪魔は核がよけれれば、即死しない(まあ、首ねじ切られたり、頭潰されると終わりだけれど)。暴食の作れる?」
「やれますよ」
と、門番は暴食の人体(?)模型を作った。
胴体の中が全部、胃袋だった。
「この胃の中に核がいるから、エアバックみたいな役目があるみたいで、ダメージは食うけど、核は無事な事が多い。ここまではわかったけれども」
核は男女ともに持っているのに。
なぜ男は妊娠しないのか。
胸と尻の大きさと性器ぐらいしか違いがないのに。
「人間の方も、見た目整えただけじゃ妊娠しなくて、いろいろ調べたら、男女差に関係する情報が違うところがあったんだ。で、それを弄ったら、まあ、孕んで、わりあい普通に子供が生まれたから、それなんだろうなーって思ってる。×と欠けた×。yかな。××な女と×yの男。1/8に満たない情報の足し引き。たぶん核の中にある情報も、それがあると思うのに。今の僕には見えない」
つまり、今は出来ない、と言っているのだが、その試行錯誤、ちゃんと女体化というか、弱い男悪魔が子供が欲しいという、切って捨てて良い願いに対して、かなりまじめに研究してくれていることを察した彼らは。
「お手数をおかけしています」
と、頭を下げるほかない。
「伯爵になってから、ぼやっと見える気はするんだけれど、悪魔は基本情報が×の形じゃないんだろうな」
私「なんで、66万6千という半端な数字が?」
無夜「位取りカンマを入れるとわかるよ」
私「666,000。おっ、良い感じに666の悪魔の数字が区切りよく並ぶんだねっ」
無夜「666万にしちゃうと、千年かかるから怠惰の悪魔の強化条件としては、無理ゲーになってしまうのと、強欲のリムは通貨馬鹿食いすれば男爵になれるけれど、怠惰のムーщが平のまま死んでしまうから」
私「この状態でも、強いのに、あと8万時間寝ればもっと強くなるわけだねえ」
無夜「ぶっ続けで寝ても9年かかるから、簡単かどうか。魔力爆上げしたら、爵位が追いついてないから、魔力過多が酷くなるの本能がわかっていて、眠りを避けてるからね」
私「あとは、わりとまじめに男悪魔の妊娠に科学ぶちこまれてる」
無夜「簡単にカイγーンとジョーンに子供造らせないために、多層試練みたいなのにしてるから」
私「メタイなっ」
無夜「男悪魔が妊娠できるようになっても、人間と悪魔のハーフはまだいないから、まだまだかかるよ」




