獣のように
カイγーンは期待した。
ジョーンと離れて、人間界時間では70日近くになる。自分的には7日だが。
「きっとジョーンは僕が恋しくて、きっときっと、獣のように激しく僕を求めてくれるに違いないっにゃ」
と、大きく期待していた。
だが、古参の悪魔達は「あるかな」「ないかな」「ないよね」と、推測し、機嫌悪くなって帰ってくるんですねと達観した。
「まあまあまあまあまあっっっ」
ムーщがいつものロングシャツみたいなワンピースで出かけようとするカイγーンを捕まえて。
「せっかく旦那様に久々に会われるんですから、おめかししましょう」
「ドレスでも作ったの?」
「紳士服をご用意しておりますーっっ」
こんなことでもなければ、着ない。着せられない。
燕尾服を着せた。
怠惰なので、着るのさえ、バンザーイっと手を上げればすぽんっと着られる襟ぐりの広いシャツぐらいしか着ないのである。ワンピースっぽく、俗に言うAラインに仕立てているものだ。色も頓着しないので明るく薄めにした基本12色を用意している。本当にどんな色でも頓着しないけど。そもそもほぼ猫の姿だ。
用意されていた燕尾服。
色彩鳥から『真の黒』と名付けられた、濁りのない奈落のような黒を地に、濃さをさらに重ねた黒を毛羽のような表面に載せたもの。光に当たったときに、複雑な光沢が出て、しっとりとした艶を失わない。
悪魔たちはその姿を見て、口々に褒め称えた。
ちなみにジョーンには『鬱蒼なる青』という抜けきった暗い青が作り出されている。透き通りすぎて宇宙まで見通せてしまう、空の、黒いほどの青だ。
フォーマルのスーツを作ってある。
お二人が並んで着ているところが見たい。
と領民は思った。
娼館にたまに没落貴族が売られてくるので、当人に問題がなければ売春はさせず、屋敷で皆に行儀作法を教える仕事をさせおり、ジョーンとカイγーンはもちろん、悪魔達は全員、それなりの作法を叩き込まれている。
屋敷の子たちも習う。一応、金持ちの屋敷の体裁であるから。
ちゃんとした服を着せれば、それなりに洗練された所作もできるカイγーンである。
仕事などで取引先を相手するジョーンの隣に立ったときに恥ずかしくないように。
面倒くさがりだが、最低限のことは押さえている。週に1時間の習い事でも、60年も習えば身に付く。
「じゃ、むかえにいくねっ」
ああ、ジョーン。久しぶりの僕を見て、獣のように求めてきたら本当に、どうしよう。 場合によっては、お外でそのまま。
お外! 外で、昼間にそんな。
にゃんにゃんにゃん♪
うきうきわくわくしながら、人間界のドアを開けて、長く暮らした農家の部屋に出て。
ご主人の魔力に気が付いた農家担当悪魔が慌てて駆けつけてきて、跪いた。
「あ、勝ったのにゃん♪ で、ジョーンどこ?」
ぶれないな、と思いながら、「農作業に出ておられます」と、答えたあと、「勝利を信じておりました」と付け加える。本当に、なんというのか、まったく負ける気はしなかった。
カイγーンは猫になって駆けていきたいのを我慢して、人の姿で走った。
せっかくの作法も、所作も台無しだったが。
森から畑に伸びてきた根っこを、ぎこぎこと鋸で切っているジョーンを見つけて、満面の笑顔で
「ジョーンっっ。お待たせっ」
と飛び込んでいく。
ジョーンは冷静に、とりあえず、鋸を置いて手を広げた。
ジョーンはきちんとした礼服姿のカイγーンが飛び込んできたので、自分は農作業中で汚れていたため、引きはがした。
ついで気になっていたので、頭のてっぺんから足まで見た。服を着ているから怪我をしていてもわからないが、痛みがあるならあんな風に飛び込んでこないだろう。
「怪我はしなかったんだな?」
手をズボンの尻で拭いてから、とりあえず彼の肩へと置く。
それがカイは気に喰わない。
もっと情熱的な再会を妄想・・・・・・もとい、想像していただけに。
プンスカし始めたので、ジョーンはあ、俺、なんかしてしまったかと気が付いた。
ご機嫌をとりながら、とりあえず領地へと向かい。
「ジョーン、ちょっと、僕が居なくて寂しくなかったっての」
という我が儘に繋がっていく。




