悪魔達の世代交代
悪魔達にも死者が出始めた。
生まれてすぐの悪魔の寿命は50歳が基本だが、毒の森の者は25~46歳ぐらいが多かった。毒気に負けて、早死にする。
だが、人間界を行き来するので、残り寿命が10倍近くになり、カイγーンの生み出す上鉄銭を食べて、ジョーンの一回目の生の終わりと二度目の生の始まりを見届けてから、心おきなく生命を終わらせていった。
傲慢のリーシャはそもそも出会ったときには余命3年程度。人間界と魔界を行き来しても、28年ぐらいしか余命がなかった(魔界時間が基本軸である)。カイγーンの上鉄銭でさらに魔界時間で2年(人間界時間にして18年)は伸びたが、人間は魔法で余命を変えられても、悪魔はそうもいかず、己の適正を変えられなければ、寿命は延びず、亡くなった。過度の暴力を受けたので、寿命の伸びの悪さもあった。当人は満足して、息子と最期の日を過ごし、角と尾を遺した。
ジョーンにとっては読み書き計算だけではなく、高等学問所の教育までも伝えてくれた師であり、寂しく思った。
さらわれた娘たちの中には、自死感が強くなっている者もいて、彼女は寿命を待たず、ボルタ(強欲)とトート(憤怒)という双子の男の子(双方トラ)を産み落として、死んでいった。
ボルタもトートも人型としては、17才、175センチ、と悪くない形を手に入れていた。
だが、ボルタは強欲のため育ちが遅く、トートは憤怒のため、早々と強くなっていき。 トートは双子の兄をさんざんいびってそれを咎められると、強さを崇めないこの領地に苛立って毒の森へと出て行った。
ほかの娘達もカイの上鉄銭で少し寿命は延びても、暴力を受けたり毒の森の毒の影響で、やはり魔界年齢で54才ぐらいが限界で、ジョーンの二週目の人生の前半期に、相次いで双子を産み落として亡くなっていった。
母のない子らは、里長が面倒を見て、ジョーンも週に二回は手伝いに行った。
とはいえ、7週間で人型になり、8才から12才程度の知性と理性を持つので、そこから二ヶ月が大変だった。機動力と好奇心と、常識の足りなさで。
外見は50代の男が、無垢な目をして全裸で領内を走り回る、とか。笑えばいいかなぁ、とか判断に困る。女の場合、全力で女性達が止めるが、あまりそういうことはない。
二ヶ月もすると、14・5ぐらいの精神年齢に達して、常識もわかるので。一応、成人である。
「僕は7週間目、人型になった瞬間、大人になった気がしたけど」
と、カイγーンは目下の子らをみて呟くと、里長は遠い目をして、
「当人は、一気に万能感を覚えて、大人になった気になるんです。大人扱いにはその後、しばらく時間がいります」
と、答えた。
年少者の面倒をあまり見てこなかった悪魔達はそれを聞いて、脳裏にうつらうつらと浮かぶ黒歴史に疼く胸を押さえた。
領民が入れ替わると、過半数だった暴食が、半数にまで減ったというか、他の属性が増えていった。
色欲や嫉妬が増えないと、恋愛がなかなか起きない事情がある。
リーシャは暴食と恋仲になった傲慢だったが、寿命の終わりに子作りするために、悪魔は晩年近くに恋をし始める。最期の花火、最期の火花。それが、色欲や嫉妬以外の者にとっての普通である。
若い上、怠惰なるカイγーンが人間との間に恋に墜ちたのは、珍しい。二年暮らした嫉妬の母が彼に恋や愛を見せていたからというのもあるが、ジョーンとの出会いが、よほど噛み合ったからだろう。
里長は男爵に至り、杖を得たが、そのままカイγーンの領地に住まうことにした。
独立するより、ここの方が安全で安心である。
ムーщが二番目に男爵化した。その後リムも。
男爵領にこんなに配下の男爵がいるのは普通ではない。
準男爵も8名ほど、騎士爵も10名。
かなりの戦力である。
ゆっくり着実に育てられていく若いボルタも、今は騎士爵。強欲は育ちは遅いが歩みがとまらない。眠り、食べるのでジョーンとも生活の相性がよい。
色変えの魔法を使う小鳥は、28色できるようになり。
明るさの変わらない領内に朝・昼・夕・夜の光区分する役職の悪魔たちが生まれ。
彼らに嗜好品を提供する蜜の木は大きく育ち。
子供達も着実に育っていく。




