角が折れた角兎
動物?が虐待されてる描写?があります?
エリーゼの夫が亡くなり、しばらく後にエリーゼもまた、子らに手を握られながら天に召された。
旦那様とご主人が気落ちしているのを見て、なんとかしなければと領民は思った。
優先順位最上位が旦那様である。
領民の世話を焼いているのが実質、ジョーンであるから、こうもなる。
領地はカラフルな煉瓦やタイルを使われ、領民も人型時にはいろんな色の服を着ていて、かつての『素材そのまま使用』の無骨さがなくなった。
最初は煉瓦を白っぽい赤、黒っぽい赤、程度にしか色を変えられなかった小鳥の悪魔。彼は30年かけて12色濃淡自由変更出来るようになったため、実質ほぼ無限大の色を手に入れていた。
こういう悪魔は、普通の悪魔の領地では生き残らないか捨てられるのだが、カイγーンのところはこつこつ育てていく。
ジョーンが「色が変えられたら、人間界で売り物の幅が広がるから、その才は大事しなさい」と、言ってくれたからである。
そんなこんなで、戦闘力はない一芸持ち悪魔も、そんなに肩身を狭くしないで生活できている。
だから、旦那様が落ち込むと、領民がざわつく。
毒の森に出ていた、材木や岩の切り出し班が、岩のところで気絶している耳の先が灰色のほかは真っ白な兎を拾ってきた。
角兎(一角で、額から出ている)、なのだが、どうやら岩に激突して角が折れた、らしい。
根元から折れている角も拾って、首根っこをむんずと掴み、領地に連れ帰った。
人間界の普通の生き物は、すぐ死ぬが、角兎は、殺されなければ死なないので、旦那様の心を慰めるペットにいいかなと、気が付いたので。丁度良いことに、最大の攻撃力というか、唯一の武器の角もがっつり折れているので、危なくない。
農家では兎はただの害獣だ。でも領地では多少農作物も栽培しているが、兎一匹に目くじら立てるほどではない。
ジョーンの領地での住まいに、農家にあった茨が分け枝されて、うまく根付き、それの花や葉、たまにつく毛虫などを兎は食べて育っていった。基本的に、餌は村でとれる刈り取られた麦わらだったり、野菜だったり。
レティシアと名付けられて。
連れ帰った悪魔の思惑通り、カイγーンと競ってジョーンの膝の上にのりたがり、いがみ合って、ジョーンに仲裁されて、撫でられて、10年もすると猫の姿のカイγーンと額を付き合わせて、相撲みたいなのをしだし。
「・・・・・・ご主人、手加減してる?」
「まさか。ご主人にそんな大人げないよ」
「額相撲、ご主人ぶっちぎりに強いじゃん」
「あ」
カイγーンは鹿(130㎏)とオオアリクイ(240㎏)の大型ツートップ悪魔に、本性での額相撲で、勝っている。
魔界でもそうそういない化け物二匹を、ジョーンは今日も膝に乗せて、撫でていた。
殺されなければ死なない兎。
おかしい、まずいと思わないのが、あまり考えない悪魔連中らしい。
ジョーンは長生きする魔界の兎ですよ、と渡されたので、情報が足りてないので、そのまま受け入れた。
膝の上で、鼻から「ふすふすっ」と呼吸音を出すほかは静かなもので、ジョーンは見た目が60歳を超えてからは、揺り椅子で揺られながら二匹をなで回して過ごす時間が多くなっていった。
兎は黒猫より二回り大きい程度の見た目で成長を止めていたが、ジョーンが見てないところでは、牛より大きくなって、若い悪魔に蹴りを入れたり、わりとやんちゃなことをしていた。
ちなみに、名前からもわかるとおりメスである。
魔王は眠りから目覚めた。
怠惰なので、一年ぐらい平気で眠る。
ワインを作る用の果樹と、蜜の木。
石造りの平屋が中央にぽつんとある。
だだ広い領地に、悪魔はいない。
大きな兎が付き添うだけだ。
だいぶ昔、たまたま角の折れたオスの兎を拾った。
唯一の武器を失ったのだから、そのままなら死んでしまうので、領地に閉じ込めても罪悪感はなく、飼い始めて。
気が付いた。
この一角兎は唯一の武器である角に栄養を与えきっていて、それの攻撃(角での一撃)が失敗すると、後ろ首あたりを食い破られて絶命してしまうことが多いので、3年と生きないのだが。
その角がなくなり、10年生きると、全体的に、おかしな強さになる。狼ぐらいでは歯が皮膚を通らないとか。蹴られると悪魔の男爵子爵ぐらいでも骨折するとか。
全体グレーに、足に真っ黒な靴下の見た目は可愛い兎。ただし牛よりでかい。300年ぐらい生きているのでもう鯨と体の大きさで張り合える。
領地から出たとたん、上空を飛翔していた若いドラゴンを蹴り落として、しがみついて交尾の相手にしてしまうぐらいには強くなる。
ドラゴンはめちゃくちゃ嫌がっているが、
「体格が合うメス兎見かけないからなー」
と、放置した。
年に10回ぐらい兎は盛っている。発散しないと噛みついてくるし、ずっと撫でてろとか要求してくる。撫で方が悪いと噛むし。
我が儘で困る。
ドラゴンのくせに弱いのが悪い。あと、ドラゴンもオスなので、魔王は同情していない。
ほっておくと、ドラゴンの飼い主の公爵が怒るから、在る程度で助けようとは思っている。
起き抜けに動くのは面倒くさい。
そのまま助けるのを忘れたので、公爵からくどいクレームが来た。
でも兎が文字通り『蹴散らし』た。
くどいクレーム。きっと、めっちゃ、くどくどしてたんですよねー。。。加害した兎が蹴るぐらいに。




