裏切りは『死』ではぬるい
残忍な描写ありまーす
葬儀の時、ジョーン達の曾孫娘とされた娘エレンは5歳だった。
大好きな曾祖父母の死も、正確には理解できなかっただろう。
それから8年を経て田舎の村娘ながら非の打ち所ない実直でかわいらしい娘に育った。金髪に近い栗色の髪は、朝夕櫛を入れて手入れをしているので長く美しい。村一番の美女になるだろう。
嫁ぎ先の村の男も決まった。二年後、エレンが15になったら結婚する。相手は一つ年上。
村の中でもましな部類だ。
農家を任された悪魔にとって、娘エレンは政略結婚の道具として手元に置いたが、情は移る。食の細い娘で、やきもきしながら育てたこともあって、幸せであって欲しい、と願っているのだ。
だが、この地に最悪な娯楽がやってきた。
魔女裁判、という。
元々、村長と司祭がつるんでいたのと、息子の妾にと言われて断ったので逆恨みされたのだ。
いや、なぜ、エレンを妾に出さなきゃならないのか。娘当人がそいつに惚れてるなら考えもするが。
美しく育ち行くエレンをおしく思った村長の息子は、親から役目を引き継いだときに、魔女としてエレン一家を嬲ることを考えついた。
馬鹿である。
本物の悪魔にそれをやったら、どうなるか。
ましてや、カイγーンの眷属たちもカイγーン自身も、エレンの幸福を大なり小なり祈っており、強姦して村の共有家畜にしてやる、とか言われたら、
「旦那様、全員殺して良いですか」
「殺すだけでは生ぬるいよっ」
と、領民全員が殺意に滾りまくってしまっていた。
この話は、コウモリの姿の悪魔が定期的に村長が悪さをしないか見に行ったときに聞いたものだ。
ジョーンはしばらく考えた後、
「エレンを町の屋敷に逃がそう。許婚はどうしてる?」
傲慢の若いコウモリは、羽を畳むと小さな鼠みたいな姿で、ジョーンの肩にしがみつきながら、
「あいつ、新しい村長の娘と結婚して、つぎの村長にって言われたら、エレン捨てたよ」
と、答えた。
指でちょいちょいとジョーンに頭を撫でて貰えると、コウモリは気持ちよさそうに目を閉じた。
「それをエレンに教えるというか、聞かせてやってくれ。未練が残って戻ってこないように。あとは、まあ、娼館に女が足りないと言う報告もあったから、殺さずに放り込むのでどうだろう。とりあえず、賛同者は20年。共犯25年。主犯50年の奉公をしてもらう。この村から人を減らした分、屋敷から村に流入させて、この村を完全に支配下に置こう。屋敷も、悪魔崇拝者(保護した人間たち)でいっぱいになっているしな」
と、決断した。
「やつらが行動を起こすのは明後日って話。異端審問官が今夜か夕方に到着だって。先月司祭が手紙出してた。中身確認できていれば、こんな際際にならずにすんだのに」
この場にカイγーンはいない。
領地で寝ている。
ジョーンは今日は新聞を読みに、農家の家に来ていたのだ。気になったことがあったので、読み直しに。仲良くしている村の知り合いが読みに来るので、一度読んだらこちらに返して、保管している。
まあ、丁度良かった。
「では明日の朝から動いて、夕方には全員拘束しているように」
ジョーンの判断を、勝手なことをして、という領民はいない。
人間界でのことは、ジョーンに決定権があるのだ。というか、カイγーンは怠惰なので、面倒だから、領内のことすらまともにやらない。
ただ、エレンや家族を陵辱せんという話を聞かされれば、悪魔らしく冷酷に、無慈悲に、怒るだろう。
この日の夜遅く、エレンは許嫁が自分を捨てて村長の娘と添い遂げると聞かされて、ショックを受けた。
たまたま寝付けず(夜に濃いめのコーヒー飲まされてる)、ならばと母(暴食の悪魔)が夜の散歩に誘ってくれて、(悪魔が魔法で誘導して逢い引きさせていた)許婚と村長の娘がそんな話をしながら、藪の中で性行為しているところに出くわした。
村長の娘「本当に、エレンは良いの? くすくすっ」
許婚「いいって。最初は俺が貰える約束はしてるし。村の男ども共有の穴豚になるやつなんかと結婚の約束していた方が、恥ずかしい」
その裏切り者達に勘付かれないようにそっと母がエレンの肩を抱いて家に帰り、たどり着くと堰を切ったように泣きじゃくる娘に。
「ここは危ない。知り合いの元へいきなさい」
と、待ちかまえていた父(憤怒の悪魔なので怒りは本気の怒り)と兄(暴食の悪魔)にロバに乗せられて。
「お父さん、お父さんはっ」
「私はやるべきことがある」
「おとーさんーっっっ」
兄と母に促され三日かけて町の屋敷に連れて行かれたのだった。
行儀見習いで二年奉公する、ということにして。
母と兄は村に戻ってしまった。
悪魔一同「ふぅっ、良い仕事したっ(完璧です)」
「融和策が無駄になったけれど。まあエレンも可愛かったし、クズと結婚する前に屋敷に逃がしたからそのあたりは、よかった」
しかして、怠惰の悪魔、カイγーンはお怒りであり。
怠惰な彼としては珍しく能動的に、この村の制圧に参加した。
「身内虚仮にされて黙ってられるわけないんだよ」
夜明け後から、昼までには、村人全員320名が縄をかけられて広場に転がされた。
異端審問官と司祭、22名も。
嘘がわかる悪魔達が、今日のために強欲と傲慢達が練りに練った質問を問うて、『賛同者』『共犯』『主犯』を選別していく。
○この魔女狩りの話を知っていたか
○エレン(ジョーン)の一家をうらやみ、エレンたちが酷い目に遭わされるのを喜んだか
○エレンが村の共有性奴隷にされたら、うれしいか
○魔女狩りを企画したか
○村長派か
異端審問官と司祭、村長一家と許婚一家は『主犯』なので逃げられないように手足を切り落として、娼館にすぐに送ってしまった。あちらには女体化できる悪魔が居るので、さっさと稼がせる。
ジョーンにとって救いは、
○そもそも魔女狩りなんて知らない
○知り合いを性奴隷に、なんてひどいことに関わり合いたくない
○エレン一家に特に悪い感情はない
○ずっと村長はあの家で、仕方ないと思っていたが、彼らの行動は不愉快だった
という、真っ白な村人が320名中122名もいたことだろう。まあ、そのあたりをまったく知らされていない・理解できない子供・赤子含む、のだが。
完全な村長派で魔女狩りを知っていて、能動的に参加することになっていた『主犯』は、44人(大人の男ばかり)。
魔女狩りはしらないが、
○エレン(ジョーン)の一家をうらやみ、エレンたちが酷い目に遭わされるのを喜んだか
○エレンが村の共有性奴隷にされたら、うれしいか
の項目で、『うれしい』『ざまあみろ』的な感情を持つ『賛同者』が残り154名。
無辜な村人には、悪魔のことを口外しないことと、反抗しないことを条件に解放する契約を交わした。
『主犯』と『賛同者』は娼館に送った。
「『共犯』の枠が選抜できなかったね」
4日ほどかけて村人をふるいにかけ、契約したあと、久しぶりに自宅でお茶をゆるりと飲んだカイが名簿を見て言った。
「実行前だったので、『主犯』と『共犯』、『共犯』と『賛同』の区切りが明確ではないというせいもあるでしょう。選抜のための質問がもう少し洗練できたかもしれませんね」
と、孫の嫁枠の、暴食の悪魔が茶菓子のクッキーを食べながら言った。
「時間がなかったので取り急ぎ、悪意を拾える質問に厳選しました」
と、傲慢のコウモリがテーブルの上で、皿にのったミルクを舐めながら。
ほぼ村の制圧は終わったが、念のための待機組である。
屋敷から人間と領地から悪魔がこちらに来て安定するまで、一応予備待機の者が必要だ。
樫の木の大テーブルの、幼児のエレンが囓った跡のついた脚をカイはするりと撫で、テーブルの上に、ちょっとついた傷、一つ一つの由来の記憶をたどる。
うん、テーブルの脚は食べれないんだよ、とまじめに言う日が来ようとは。あのときはびっくりした。
「艶々だね」
「毎晩、磨いてますから」
「茨も元気そうだし。ありがとう」
「いえ。旦那様とご主人の思い出深い家を任されました。もったいなく。そして、だからこそ、村長達と司祭の暴挙は許せません」
「50年と区切ったから、酷いところにあてがうよ。何回死ぬかな。ジョーンが殺すなと言うから、殺さないけれど。贖罪が済む頃、魂はもう壊れているだろう」
娼館は220人の新人を受け入れさせられて、大わらわで、引退して屋敷でゆったり暮らしていたやり手婆だった人間の女ダリアが引っ張り出されていた。
娼館は普通の客の店(最初に貰った店)と、その後抱える娼婦が増えたので、さらにいかがわしい界隈に出した店が二つある。
30歳前後に若返らせられたダリアは、
「静かに老後を味わって、もう逝っちゃいたかったんですよ。おまえさんたち、ほいほい私を若返らせるけど」
文句を言った。
「もう2ターンぐらい人生いけると思う」
「すり切れるだろっ、人間の魂も精神も強くないんだよ」
言いながらも、小児性愛者専門の娼館を仕切った。
ここの娼婦や娼夫は見た目は10歳以下だが、中身は60歳以上が多く、若くても55歳だった。
盗賊団の男たちで、孤立気味の村を襲って男や年寄りは殺し、女子供をさらって嬲ったあと、娼館にたたき売るのだが、カイγーンの娼館は所有権のない者を売ると、契約にある通りに売り手は寿命を奪われてだいたい死ぬため、何人か不審死の部下が出たことから、娼館を怪しんで部下を率いて襲いに来た。
それらはあっさり捕まり、幼女や美少年にされている。強襲者は15人いた。だが、アジトに残っている連中や協力者、偵察に出ている連中含めると、60人超えの大所帯で、全員捕まえるのに2週間かかった。あちこちにいるせいで。
基本的に、カイγーンがジョーンの若返りや女体化や子を作る実験やその錬度をあげるための場所なので、まともな子を産めば解放される。が、初潮もまだな子供の姿にされるということは、永遠にここで働かされるということだ。幼い少年の姿にされているお頭や幹部に至っては、絶対に解放する気がない。
ついでに、ペド相手に身売りすると、三ヶ月に一回、季節ごとに、死ぬ。殺される。
元が盗賊なので、ダリアの心は痛まない。
司祭や異端審問官が拷問されて、何人、どのように殺した、ないし呵責したかを書類に書き起こす。
かつてダリアは文字が読めなかったし計算が出来なかったが、傲慢の悪魔リーシャがスパルタで仕込んでくれたので(頼んでないのに)、帳簿も付けられるようになり(頼んでないのに)、悪魔達が姉御とか呼んで手放さない(頼んでないよ? ほんとに)。
リーシャ「色欲とか怠惰とかの悪魔に教えるより、人間に教える方が本当に、簡単なんですよ。帳簿なんてつけられませんからねっ、あいつら」
暴食は食べ物が絡むと、かけ算わり算まで覚えるが、傲慢と強欲以外が、万の位や三桁以上のかけ算、わり算は一桁でも、ほぼ無理。
内情知っていて、帳簿もつけられて、娼館の管理も出来るダリア。悪魔にとって、若返らせるぐらいのコストを払ってもだんぜんおつりが来る人間であった。
ジョーンが慈悲深いため、「残忍に殺した人間の数だけ殺されたら、解放してやったら? 大人の男の姿に戻すと、また犯罪を犯すかも知れないから、女の姿で」という方針ができた。
盗賊団の下っ端は、5年ぐらいで順次抜け、幹部ではないがベテラン層も12年(つまり、年4回、12年だから、50人近く殺している)前後で足抜けしてしたため、ここにいるのは幹部層8名である。
ダリア「盗賊の幹部ぐらい殺してんじゃないかい。異端審問官たちは。司祭の方が、まだ少ないけれど、それでも6年は堅いっと。18名が、12年、4名が7年前後のお勤め・・・ではない?」
悪魔「あ、旦那様が、これらの主犯は50年って」
ダリア「早く言って。聞き取り馬鹿みたい。すごく気鬱になるんだよ、こいつらの残虐自慢物語聞かされるの」
悪魔「季節ごとの殺され方は、それに準じますからぁ。お疲れのダリア姉さんにはっ、レモンの蜂蜜砂糖漬けをご用意っ」
ダリア「ちっ。好物なんて教えるんじゃなかった」
皿に山盛りで差し出された、輪切りのレモンを一枚摘まんで口に放る。
甘酸っぱい。レモンに、わずかな蜂蜜の香り。主に気持ちの疲れが癒えていく。甘味はやっぱり、特効薬だ。
悪魔「姉さん、司祭の『娘を目の前で焼き殺しながら、母親を強姦して、罵ってきた母親に焼けた娘の肉を食わせた』って、どうやって当人に再現したら?」
ダリア「せっかく好物食べてるときに、そんな話かい。そんなの、焼き鏝当てながら、客に犯させて、終わったら、焦げた自分の肉を削り取って食わせていけばいいじゃないか。何度か繰り返す、でなきゃ複数箇所を同時に焼くんだね」
ダリアが重宝されるのは、そういうところである。悪魔が思いつかないことに、適切に答えをくれる。
もうドレスや宝飾品にも大して興味もなく、ただ甘い物が好きなので季節のフルーツや砂糖をたっぷり使った菓子が毎週贈られて、カイγーン自らが彼女が虫歯になると治療に出向くぐらいには、大事にされている。
ダリアが娼館にきた罪人達の季節ごとの死に方を決めていき、後ろから追随する悪魔が書き取りする。
ダリア「主犯というと共犯も居るんだろうね」
悪魔「共犯の区分ができかねましたので、主犯66名はうちで預かりで、ほか154名は賛同者として本館(初期の普通の娼館)で、普通に20年のお勤めです」
ダリア「あっちもあっちで、てんてこ舞いそうだね。仕方ない。ちょいと様子見にいっておこうかね。常設娼婦の5倍も人来たら、館に収まらないだろうに」
悪魔「向こうは、5年に一回、姿変えして配置変えするだけなので、こちらみたいな物騒なのはありませんからね」
ダリアの管理しているこちらの娼館の客層は、ほんとうにろくでもない地獄の住人みたいな連中であるので、他に回されたのなら楽だろう。
小児性愛者の連中は、『幼児を殺すイベント』を勧めると目を輝かして参加する。
ほかの娼館だと、『他館である幼児が殺されるイベント案内』としてチラシがあると、客の大半が気分を害し、それに興味がある連中は、まあこちらの客にして、まっとうな?娼館からは排除している。
娼婦たちの姿を変えても、普通の方の常連は『年季空けたお気にの娘と、雰囲気が似てるから、この娘にするよ』と、わりとうっすら気が付くのだが、ペドは自分が残虐に殺した前の子が姿を変えて蘇っても、気が付かない。新品で、ないしまだ日が浅くて、若ければ若いほどよいので、性のはけ口に人格など不要なのだろう。性愛ですらないのだ。
持ち込みを徹底的に禁止しても、子供の足首を掴んでぐるぐる振り回し、壁に首をたたきつけて折って殺していく男が居たが(許可なく娼婦殺すと、寿命半分悪魔に奪われるので、すぐ死んだ)、まあとにかく壊す、殺すのが好きな糞が多い。
だから、何度でも生き返らせられて見た目を変えられ、その運命を強要しても心が痛むことのないクズな娼婦役がいるので、儲かりはする。
ダリアの気持ちがすり切れるけれど。
なんで、こんな目に。
夢だ、これは悪夢の中に違いない。
そう、村長は思った。
エレンが8歳の時、彼はエレンへ欲望を持った。
だから、8歳の女児の姿にされて。
客を取らされた。
抵抗したら、頭を捕まれて、壁に顔をたたきつけられて、鼻が折れた。
そのまま犯されて、わざと雑につくられた女性器は簡単に裂けて、股関節が折れた。
鼻血を出して痛い痛いと悲鳴を上げる。
客の一人目が終わったときには、骨が四本折れ、膣も肛門も裂けて血がどばどば出ていた。
最初の客が最初の死だった。
「困りますよ、お客さん」
やりすぎた客は、娼館の所有物を意図的に壊したら、所有する全財産を娼館に渡すことになっているため、黙って逃げたが。
悪魔の契約があるので、翌日は全財産を届け、残りの寿命を渡して、死に行った。パブで最期の一杯をやりながら、がたんと倒れて逝ったので、店に迷惑をかけてしまった。
村長は生き返らせられ、傷を治され、再度、初めての客を取らされ、今度は瀕死になった。
死が一度しかない者は幸運である
悪魔に目を付けられ
呵責される者は
何度も殺され
また生をやり直す
地獄は続く
約束の日まで
悪魔「ダリア姉さん、お疲れ様でした。どうします? 市場とかお店とか見に行くなら、お供しますよ。護衛と荷物持ちはお任せください」
ダリア「屋敷に、お嬢様来ているからね。リボンでも皆に買っててやろうかね。金もらっても使い道なんざ、一服するシガーぐらいのもんだしね」
エレンはことが解決した2ヶ月後に、父と屋敷で再会できて、喜び涙を流し抱きしめあった。
「無事でよかった」
「ああ、主(神ではなくカイγーンのことだが、内緒である)の御加護があったのだ」
だが、嫌な思い出のある村ではなく、屋敷でメイドとしてしばらく働くことになった。
村の男達全員に手込めにされる、という話を許婚があざ笑っていたのだから、気持ち悪くて仕方ない。異端審問官の人たちが、それはおかしいと村長と司祭を捕縛してくれたと、聞かされても。
ダリア「ちょうど、人手がなくてね。夫婦や親子で勤めている子たちも多いからね。移住が決まって一気に減ってしまったから」
ダリアはたまに、女主人みたいなこともしている。
娼館にいるときは、髪をきっちり結い上げて飾り櫛や髪飾りで盛っており、真っ赤、もしくは濃厚なオレンジ色のドレスが多いが、こちらでは黒にも見える濃紺のワンピースに、髪は飾り気なくおろして同色のベールをつけているので、喪に服す尊い未亡人に見える。口を開けば下町育ちだとばれてしまうが、屋敷の中だけなので、問題ない。
本当の主人と旦那様は月に4・5回しか来ない上、エレンとは身内なので顔を見せられない。
エレンは下級メイドで本館は立ち入らない、ということにして。
父は村に帰っていき、ややホームシックで傷心していたエレンは、この屋敷で一緒に勤めている優しい少年に慰められていた。
屋敷の使用人同士が結婚して生まれた子で、悪魔への理解度とカイγーンへの忠誠心が高く、エレンを傷つけない同じ年の少年。
村から逃げて3ヶ月後には、エレンはここで正式にメイドとして暮らすことになった。
一年半後、よくしてくれた少年と、婚約して十八で嫁いだ。
ダリア・悪魔「ほっとしたよ」
司祭と異端審問官が消えたわけだが、この組織の上層部はなぜ動かないのか、というと。
カイγーンによって、一等権力のある者たちの背骨の一つが潰されたからだ。
教会の組織として『教皇』『大司祭』『司祭』『見習い司祭』『修道士・修道女』『信徒』の並びとなる。(作者・こっちのカトリックには『枢機卿』と『助祭』がいるが。この作品は別組織ですよ?)
で、カイγーンは教皇と大司祭、計34名を潰した。
どうなるかというと。
すこぶる痛い。
発熱する。
そうして数日苦しんで、ようやくベッドから起きあがれるようになると背中ががっつりと曲がっている。
これは年を取った女性に多い病気で、魔女の絵姿も、こんな感じが多い。
魔女狩りをほっておけば、シルエットが魔女的な大司祭たちや教皇はどうなるか。
少し頭が回ればわかるわけだが、それを察せる知能を、ジョーンは期待していなかった。
背を曲げた彼らがミサを行ったあと、酒場で、集会で悪魔達はさえずった。
「魔女ののろいかな。それとも彼らが魔女なのかも。一斉にってところが、また怪しいな。神が罰を下したのかも?」
こんな噂がぽつぽつ沸いて彼らの耳にはいると、魔女狩りは正式に禁止され、行っていた司祭は破門され、異端審問官たちは解散して空いた教会に司祭として入ったり、破門された。
(異端審問官の階級は、責任者が大司祭、7割が司祭、残りが見習い司祭)
それに紛れて、ジョーンの村の司祭たちが一気に消えたことなども、書類上前後するのだが、ほぼ同じ時期だと認識されて、逃げたのだろうと、処理された。
そして、その話をダリアが『主犯』たちの、異端審問官と司祭に伝えると、教会が黙ってないぞと折れなかった連中が、ぞくぞくと折れていった。
教会から見放されたと。
「さすが、ダリア姉さん。心の折り方よくご存じだ」
「うれしくないねー。あいつらは結局、権威の犬で、神なぞ信じてないってことだよ」
この手の『悪辣さ』は悪魔やジョーンが持ってないので、ダリアとしては仕方なしかと、協力している。
彼女はカイγーンが好きであったから。
まあ、正しくは、あざとい黒猫が「にゃーあん」と甘えて膝の上でごろごろ言いながら、すりすりと顔を擦りつけてくれるだけで、なんでも許せた。
カイγーンも、ダリアの女にしては痩せた太股の上が老齢だったイライザを思い出させて、わりとここでごろごろするのは好きである。




