悪魔のカイγーン
γは人間には発音不可
彼は野良の悪魔夫婦から生まれた。
父親は熊系、母親は猫系。
生まれた彼は猫系だった。
握り拳に満たない赤裸の、鼠とたいしてかわらない姿で生まれ、被膜がとれた瞬間からうみゃうみゃと鳴いて、残り寿命2年しかない親の元で育った。
野生の獣と同じ速度で育つので、7日もすれば自力で歩けて、走れてやんちゃするのである。
生後7週間は獣の姿で過ごし、人型になれたら、その日をもって一応成人とする。
父は四十代ぐらいの背のある男で、母は三十代終わりぐらいの、背の低い女だった。
成人したときから、その姿は変わらない。
悪魔は人間の年齢で言う、二十歳ぐらい、身長は2メートルの姿が一番力を持ちやすい形になるのだが。
カイγーンという悪魔は、十五歳ぐらいの小柄な少年の姿になった。
おまけに、大きければ大きいほどよい角は、頭部にへたりとくっついて、触らないとわからないぐらいだった。
「ま、平で野良の悪魔同士の夫婦の子だからな。そんなに悪い姿でもないよ、俺たちの可愛い黒猫」
と、父は頭をぐりぐりし、母も、
「私たちが死んだ後が心配だけれど、子供(幼獣姿)のときから活発だったから、なんとかなるでしょう」
と、後ろから抱きしめてくれた。
悪魔の生の最後に、自分たちが残した子供を二人は可愛がった。
悪魔は不慮の事故、暴力での死の予見は無理だが、寿命が尽きる日はわかるのだ。
悪魔は七週間でもう成人なので、二年の間育てられ、二人の親からいろんなことを教え伝えられたのは運が良い方、なのだろう。
野良悪魔の寿命は基本50年である。
初期寿命は人間と大して変わらないが、自分で何もできない時期が短く、言葉や魔法など、習わずとも使えるので、感覚的な寿命は人間より長い。
また、爵位持ちの悪魔が産み出す通貨を食べると、魔力と寿命が延びた。
両親は魔王就任三百年祭事業で、城壁補修作業をしたさい、上銅銭(銅貨)をそれぞれ一枚ずつ、鉄銭を十二枚もらっており、六十一まで生きた。
そして死んでいくまでに、二枚の鉄銭をカイγーンに食べさせて、
「楽しく自由に生きなさい」
と、言い残していった。
三人暮らしが、いきなり一人暮らしになり。
悪魔は死ぬと、三日後には角と尾だけが残り、体は消える。それらは薬になったりするため、下手なところに埋めると掘り返されて持って行かれてしまうため、尾は開いて鞣して髪をくくるヒモにし、角は穴を開けて首から下げた。
カイγーンにとってはそうするだけの、親への愛着があった。
そして、何日かして。
喪失感は薄れず、悲しい気持ちもまだまだ強くて、髪をくくるヒモを無意識に撫でて、ぼーうっと空を見上げていたら。
呼ばれた。
誰か
と。
カイγーンは人間には発音できない音が入っているため、儀式などで人間界に呼ばれることはまずない。
あるとしたら、ものすごく波長の合う人間の、魔法陣や魔道具などを介さない、純粋な呼びかけのみ。
そして、そういう人間の魂は、よばれた悪魔にとってのみ、白金貨に勝る美味と力らしい。生涯に一人としか出会えないような。
そう、母が言っていた。
「応じる」
大事なものは、全部身につけているし。
人間界は悪魔より弱い連中ばかりだから、経験の浅い悪魔が暮らすにはちょうど良いらしい。
呼び出されでもしないと行けないので、縁のない話だと思っていたけれど。
そして
ジョーンと出会ったカイγーンは
カイと呼ばれることになった。




