表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
寝取られジョーンのヒモ生活  作者: 無夜
寝取られジョーンの人生
16/32

ケッティの最期

 不規則で自堕落で貧困な生活が災いして、目に見えて病が発症して、危険な、そしてふしだらだからかかる病を得ていることは、誰にでもわかるようになっていた。

 彼女は腹に子を抱えたまま、追い出された。

 一人で。


 人がいれば、石を投げつけられたから。

 奇しくも違う世界線でジョーンの選んだ道筋をたどり、人の来ないところによろよろとたどり着いた。

 もう水も食料もない。

 金もない。

 意識を朦朧とさせながら、その場に倒れ込んだ。


 誰か


 救いを求めた。


「大丈夫ですか?」

 若い声がして、無防備にのばされた細い腕に、手入れをせずに歪み伸びた爪を突き立てた。

 道連れを。

 お人好しめ、この病にかかり、親しい人たちから追われるがいい。一人で孤独に、私みたいに死ね。


 という、強烈な悪意。

 手を振り払われても、爪が折れた強い痛みに、血がぬめった感触に、狂ったように笑って、最期の生命力は消えていこうとしていた。

「あんたの方が、悪魔に似合いの地獄の住人だったと思うよ」

 カイγーンはそう声をかけて、痛烈な蹴りを入れて、ケッティを仰向けにした。

 普通の野良平悪魔なら怪我を負ったかもしれないが、貴族位に達したカイγーンの肌は、シルクのような撫で心地に、象皮のような頑丈さがあるので、傷は付かない。そもそも人間の病気は感染しない。

「ジョーンが、子供が可哀想って言ったから、その子は連れて行くね」

 ケッティの腕が振り回され、邪魔なので容赦なく腕の関節を蹴り壊した。

「この子は、私のっ」

 顔にも蹴りを入れて、黙らせる。

「どうする、腹の中の、意思薄き魂よ。寿命十年と引き替えに、健康に生まれさせてあげてもいい。このまま母親と腐り墜ちたいというなら、そのままにしておく」



 い き た い



 半分腐敗した胎児が引きずり出され、

「男の子で、普通に生まれてこれたなら、六十八まで生きられたね。十年減らしても結構な長寿だ(孫の顔を見られるまで生きる人間は多くない)」

 まだ名がなくサインが出来ないが、カイとの間に紙より強い拘束力を持つ魂の契約がなると、腐った部位が泥のように落ち、生白い肌に変わっていく。

「子の出来ない夫婦に心当たりがあるから、そこに預けてあげよう。顔を二人に似せるけれど、いいよね」

 竈仲間のうわさ話で、近隣の事情は把握済である。

「さ、行こう」

 返して、それは私のと、折られた手を伸ばすケッティを、汚物を見る目でカイは見た。

「あんた、子への愛さえないんだな」

 子供は生き残れるというのに、心中相手として手放さそうとしない。

「あんたに、ジョーンの愛はもったいなかったな」



 半日、ケッティは本当に一人になって、知っている人間すべてに呪詛を呟きながら死んでいった。



 さて。その子は三十代後半の夫婦の子として生まれたことになり、育てられ、親孝行息子と評判になり、十八で同じ香りのする娘に惹かれ嫁に貰い、一年半後に親になった。

 人生はゆるりと進み、孫を得て、順風満帆に生きた。

 そして約束のその日、にゃんっという鳴き声を聞いて、ああ迎えがきたなと、静かに死の準備を自分でしおえて、眠りながら息を引き取った。

 死に際に現れた悪魔に「魂はいいのですか」と、問うと。

「寿命もらってるからいいんだよ。おまえの魂が天に行きますようにって祈った男が居るんだから、素直に天に昇って」

 そう伝えられたので、彼の魂はカイとジョーンの周りを一周して、最後に妻と子と孫らの様子を見た後、飛んでいった。

「あの気味の悪い病を消して体を治して、顔とか親に似せて整えたりで、僕の取り分八ヶ月分ぐらいしかなかったけれどもね。赤字にはならなかったから、まあいいよ。ジョーンの気持ちのためだったからね」

 天への案内はまあ、身内へのアフターケアだ。

「さようならだ、僕が愛した娘の婿よ。娘を愛してくれてありがとう。だから、契約はこれにて終了だよ」

 陽炎のように浮かんだ契約書はゆるりと揺れて、消失した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ