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寝取られジョーンのヒモ生活  作者: 無夜
寝取られジョーンの人生
1/16

ジョーンのくせに生意気だ

 何度となく、幼馴染に裏切られ、それでも結婚したジョーン。

 だが、彼女はまたも裏切った。




 あの人と一緒に行きます。

 探さないで

 キャッティーナより愛をこめて



 もう貴方しかいないの、とすがってきて、今度で最後の最後と許して結婚したのに、このありさまに、ジョーンは絶望した。

 絶望のあまり、悪魔を呼び出してしまうほど。

 話を聞いた、少年のような悪魔カイγ(人間には発音不可)ーンはからりと笑い、言った。

「お兄さん、馬鹿なの?」

 まあ、そー言われても仕方ない。



 1章目は、人生編。

 ヒモになるのは二章目から。



ピクシブにもアップ

ジョーンのくせに生意気だ



 私たちが急遽整えた天蓋付きのベッドの上に、ご主人様と旦那様がもつれあうように倒れこみました。

 まだ私たちがいるんですが、と長くペアを組む小柄なリムに目だけで会話をし、すすっと壁まで下がり、壁に姿を同化させます。

 ええ、配下で、使用人のわたくしたちですもの。

 壁や物と同じですわ。

 出ていけ、と申しつけられていませんし。

 旦那様がこちらに気が付いたようで、睨む顔をしましたが、私たちが居るという確証もないのでしょう(旦那様は人間なので、姿を隠した悪魔は見えません)、薄い絹の幕を掴んで、中が見えぬようにしただけで、ご主人様の相手に戻りました。

 あれ、簡易結界なので、完全に閉められてしまうと、影はぼんやりと透けるんですが、声も聞こえないのです。リムの技の完璧さが、たまに憎らしいんですか。

 ただ、今日は旦那様が余裕もなかったのか、わずかに開いていて、完全には術が発動していません。

 うふふふ。

 このご褒美があればこそ、独立できる強さになっても、旦那様のお世話係りをやめないのです。

 ご主人様の世話もしますけれども。



 とはいえ、音は聞こえるけれども、薄いのに鉄壁な幕が邪魔して、中はぼやっとした影しか見えません。

 絹ずれの音と、せわしなく繰り返される口づけの濡れた音。

 七十日別れていて久々に会えてましたから。

 領地が落ち着くまで、旦那様は古巣の人間界のご実家に戻られていました。

 爵位だけは格上の悪魔から喧嘩を売られて(だいぶ前に予知されていたので、危なくないように旦那様はご実家に行って貰ってました)、相手を滅ぼして、領地をぶんどったのです。

 男爵から伯爵に、ご主人様はなられて、その元(亡き)伯爵の財産やら配下やらの整理で忙しくて、危ないことも多いため、人間の旦那様を泣く泣く人間界に置いたままにし。

 領地には人間にはきつい毒気も持ち込まれてしまったので、それの浄化がなかなか長くかかり。妥協できませんでしたからね、旦那様の命と健康がかかってますから。

 で、ようやく連れ帰ってきたらば。

「ジョーン、ちょっと、僕が居なくて寂しくなかったっての」

 せっかくお迎え用に、紳士服を着ているのに、台無しですね。人間のいうところの燕の尻尾という名の、黒いのを選びました。お出かけするときは少年紳士って感じでしたのに。

 ただのだだっ子になってますね。

「そんなことは言ってないよ、カイ。大変だったのはわかってるから、ってなんで叩くんだよ」

 物わかりの良すぎるのが、ご主人様は腹立たしいのでしょう。

 旦那様は農作業の手伝いからそのまま来たらしく、麻の半袖と長ズボンですね。ズボンの裾が泥がついています。

「しらないよっ」

「ちょっ、尻尾でも痛いって」

 黒い猫の尻尾で、旦那様の足やら尻のあたりをばしばし、というかばふばふっというか、叩いています。

 あ、これは。

 食事の用意をして、しっとり大人らしく帰還を祝うのかなという読みが外れましたねと、リムと一緒に寝室に駆け込んで、ベッドメイクをあわただしくして(いえ、きれいにはしてますよ、でもね。花を飾ったり、香を炊いたり、お布団を暖めたりとか、直前の準備がねっ、してなかったんです)。

 間一髪間に合って。


 今、ここです。

 私たちは壁。

 気配を消して、壁にとけ込み。


 のぞき


 いえ、見守りをしているわけですよ。


 まあ、見えません。

 聞き耳を立てるだけです。

 旦那様と口喧嘩がヒートアップしていくと、何故か発情しちゃうらしくてですね、ご主人様が。

「ジョーンのくせに生意気」

 とか、ぐじぐじ泣きながら罵るご主人様を、頭とか撫でて宥めているようです。

 旦那様は年齢相当に落ち着いていらっしゃいます。ご主人様配下の悪魔に若返りをかけてもらって、二十歳から七十歳までをゆるりと繰り返します。記憶はそのまま残るので、人間界で養子とはいえ孫子まで得た人生と、ご主人様につれてこられて、ここでご主人様のヒモ・・・げふんっ、最愛の伴侶としての人生を合わせるとなんと、百六十年ぐらい生きてますからね(今、外見三十歳ぐらいです)。

 宥めるのもお手の物です。

 汚れた作業着がシーツ類を汚してしまうと、理性が働いたのでしょう、旦那様が着衣を全部、幕の合わせのところから放り出してきました。

「お気遣い」

「すばらしい」

 つい、声が出てしまいました。

 まあ、よごれても、きれいにしますよ。

 ついでに、ご主人の服も、ぽいぽいと投げられたので。

 ささっと拾って、外で様子をうかがっている小間使いの子に託します。

「食事とお風呂、あとまわしって伝えてきますね」

「明日の朝かしら。飲み物だけ、持ってきて。軽食はストックしてあるから」

 スコーンとサンドイッチは常に。果物もあります。

「はい」

 小間使いの子ものぞき見したそうでしたが、すぐに諦めて洗濯物を持って去っていきました。

 見せませんよ。


「尻尾、逆さに、撫でたら、許さない」

 あ、ご主人なんか怒ってますね。毛の流れの逆に撫でられると、気持ちいいらしいです。聞くと怒るので確認してませんが、だいたいにゃんにゃん鳴き出しますから。

「はううう」

「だめなの? 許さないって、どれぐらい?」

「しばらく、口聞かない」

「それはやだな。せっかく帰ってきたのに」

 あ、幕に隙間が。

 服を放ったときに、めくれたんですね。

 尻尾の付け根をぐりぐりされて、とろけてるご主人様と、髪に隠れた角についばむようなキスを繰り返す旦那様がちらっと見えましたが。

 旦那様はすぐに、空気の流れか何かを感じて、幕を閉じました。

 もう、声も聞こえません。

 残念。

 たまにご主人のおみ足が幕蹴ったりして、見えたり聞こえたりするんですけれどもね。

 そんなたまにのご褒美を目当てに、ここに控えてます。




 幕の中


 外からの明かりは透けて、中は明るすぎない程度。

 シーツや毛布は領地で育った蛾の繭でできていて、一級品(ここでの一級品は、魔法で増やしたり増加していないものを指す)。

 どれも真っ白だが、光沢は青やピンクで、同じ繭から生み出した白い糸で刺繍が施されて、ほのかに柄が光っている。

 触れれば摩擦なくするりと滑り、毛布はさすがに、縁に滑り止めの縫い取りをしているぐらい。それをしない初期に作られた毛布は、よくよくベッドから落ちた。

 白がいいのは、ジョーンが組み敷いているカイの黒い髪が振り乱れる様が、映えるからで。それ以外に理由もない。

 黒い尻尾の半ばから先がびたっびたっと毛布を叩くが、根本を掴んで親指の腹で、毛の流れと逆にざりっざりっと撫でると。

 白い身がくねった。

 ほぼ人間の姿で、猫科なので踵がないというのか、足裏が長くて踵が人間とは違うところにあるというのか。まあそんな足、尻尾、小さな角だけが、悪魔なのだというのが本当なんだなと思わせる。

「どうしたら、許してくれる?」

 と、心にもないことを聞いたから、嘘がわかるカイの目がきつくなった。

「ふっっ」

 でも、ざりざりともう少し強く撫でると、目つきも気配もとろりと溶けていく。

「愛してるって100回いったら、許す」

「いつも言ってるのに。そんなんでいいの」

「最近、『可愛い』ばっかりで、聞いてない」

「あー、いつも可愛いからね」

 本心だったので、カイは致命傷を喰らったような顔をした。

「はにゃ や、そうじゃないのっ。人生だったころみたいに、言って欲しいのっ」

「そんなやっつけみたいに、愛してるって言ったら、つまんなくない?」

「う、、、じゃあ、一日三回、朝、昼、夜に、心込めて、100日言って。明日から」

 と、注文をつけてきたから、ジョーンはカイをぎゅっと抱きしめて。

「あ、すげー可愛い」

 巻いている小さな角にちゅっちゅっと口づけした。

「あっあっ ずるっ ずるい」

 もうさっき、脱がされて、互いに全裸で、素肌同士密着されているので、カイはすでに十分にどろどろだった。

「今日のはカウントなしだから」

「うぐう」

 嘘がわかるから、その言葉をジョーンからもらうと、とてもとても甘いのに。

 可愛い、と言われても、とろけるぐらい甘いけれども。

 愛してる、と言われたら、心臓に火が飛び跳ねるぐらいに、痛くて気持ちいいのに。

「カウントしないから・・・愛してる愛してるあいしてる」

「みゅっ!」

 不意打ちできたから、耐えられなくて変な声が出た。

 唱えるように、だけれども嘘でなく、心のこもった言葉が心臓の中をはね回った。

「う、ジョーンのくせに、生意気」

「お気に召すかな?」

「とっても、ね」

 長く連れ添ったのに、こういうときはたどたどしくカイから手を握ってきて。

 ジョーンは己を養う悪魔に、奈落の底まで落とすどろどろに甘い愛を囁いた。

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