大物⑦
ある日の放課後。
「健次、今日こそ男を見せろよ」
「ああ!」
「今日こそ決めろよ」
「あぁ!」
僕は気合いが入っていた。友人の後押しで更に気合が入る。
何故ならこれから愛の告白をするからだ。
この計画は三ヶ月間にも及んだ。
彼女との出会いはたわいもないものだった。僕が陸上部の練習をしていた時、彼女は友人二人と僕らの練習を見ていた。
「おい!あの子、可愛いよ」
友人が女の子たちを見てそう言った。僕はそれほど女の子に興味はなかったが何気なくそこに視線をおくった。
視線の先にはほおづえをついてフェンスにもたれかかっている女の子がいた。
何故かその子を見た瞬間胸が熱くなるのを感じた。年頃の中学生にはよくあることだ。
「可愛いな・・・」
僕のつぶやきに友人が口をはさんだ。
「だよな!三人組だろ?」
「ああ」
「絶対真ん中だよな?」
「え?右端だろ」
「右端?右端ってあのほおづえの?」
「ああ」
「あれが・・・」
ここで言っておきたいが僕は若干、他人とは趣向が異なっていた。
そのことに気づいた友人もこの日から僕を見る目が少し変わっていた。人はそれぞれいろいろな趣向を持っている。
きっと子供の頃、父親に「ブスを選べ」と言われたことが影響しているのだろう、ただ僕はデブやブスが好きだっただけのこと、納得はしていた。世間では、僕の様な人間を「ビーセン」と呼ぶらしい。
それから三ヶ月経ち、名前も性格も分からず、廊下ですれ違っても挨拶すら出来ず、ただ顔だけがタイプだった彼女に告白する決意をした。
三ヶ月も経つのは遅いと思われがちだが、硬派だった僕にとっては早い決断だった。
生まれて初めての愛の告白に僕は緊張で震えていた。
「いいな。落ち着けよ。廊下で待たせてるからな」
気をきかせた友人が彼女を呼び出していた。
「ああ!」
僕も気合いが入っている。
「大丈夫か?」
「ああ!」
「本当にあれでいいんだな」
「ああー」
「後悔はしないか」
「ああ!・・・後悔って何が?」
「・・・いや別に。よし行って来い!」
少し戸惑い気味の友人にそう言われた僕は、彼女に向かって歩き出した。
内心、緊張で震えていたが、友人の前で怖気づくことも出来なかった。
僕は一歩ずつ彼女に近づいていった。これほどの緊張感は生まれて初めてだ。
彼女の真後ろに立ち一呼吸おいて声をかけた。
「・・・あの!」