大物④
小学校の頃、Jリーグが開幕したばかりで世の中はサッカーブームだった。友達の誘いで僕は地元のサッカークラブに入ることにした。両親はもちろん反対なんてしない。興味を持ったことはなんでもやらせてくれた。
週に一度のサッカークラブは初めこそ楽しかったが、そのうち何故か飽きてしまった。テレビで見るJリーグの華やかなイメージが強すぎたせいか、実際は試合にも出られず練習ばかりさせられているのにキャップを感じ、僕はたった三ヶ月でやめてしまった。そのことについて両親は寛大だった。
「まあ嫌々やってもうまくならない」
父親はそう言って僕をなぐさめた。ひょっとしたらサッカー選手で大物になるのではと予想していた勘は見事にはずれた。
小学校は幼稚園時代とは違い、すぐに友達も出来て毎日遊びまわっていた。両親の心配をよそに、クラスの人気者になっていた。僕はスポーツも出来たし、何よりも持ち前のユーモアで女の子にもモテた。
バレンタインデーの日に二人の女の子からチョコレートをもらい、愛の告白をされた。一人は可愛い子だったが、もう一人はとてつもないデブだった。そのことを父親に相談すると、
「デブを選べ」
と答えた。
「女は顔じゃない。愛嬌だ」
父親の言葉にまた母親が微笑んだ。母親もデブだ。
父親の言うとおり顔より愛媛を選んだ僕は二人の女の子を呼び出して返事を伝えることにした。
自分が選ばれるだろうと思っていた可愛い子は相当ショックを受けていた。僕にふられたからじゃない、きっとデブに負けたことがこたえたのだろう。
その日から彼女は学校を休みだした。
僕は責任を感じていたが、どうすることも出来なかった。
案の定、デブを選んだ後というもの、一緒に歩いていると周りから小さな笑い声が聞こえるようになった。この時、僕は絶対に選択を間違えたと思った。
そのことについて父親は黙ったままだ。