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旅立ちの序章②


「・・・そうですか」


スタッフの懸命の説得でようやく返す気になったのかホームレスは店の方へと歩きだした。スタッフもホッと一安心しているとホームレスはめがね屋を通りこして、いきなり逃走をはじめた。

その光景に慌てて追いかけるスタッフ、やがてホームレスを捕まえると逃げた理由を問いただした。


「何で逃げるんですか?」


「めがねが欲しかったので・・・」


「だから時間切れって言ってるでしょ!」


「どうしても駄目ですか・・・」


「駄目です!」


「どうしても駄目ですか・・・」


「何度言われても駄目です。ルールですから」


スタッフの強い口調にホームレスは思わず黙り込んだ。しかし、この後、ホームレスの口から思いも寄らない一言が飛び出した。


「じゃあ、ご飯おごってもらえますか・・・」


その言葉にスタッフは唖然とした。


「はあ?」


「ご飯おごってもらえますか・・・」


そう繰り返すホームレスにスタッフはこう言い返した。


「なんで私たちがおごるんですか。お腹がすいてたならさっきの十万円で何か食べればよかったでしょ!」


スタッフの言葉に再び黙り込んだホームレスはしばらくしてまたとんでもないことを口にした。


「じゃあ、セックスやらしてもらえませんか・・・」


ホームレスの意味不明な言動にスタッフは怒りさえ感じているようだ。


「嫌ですよ!だったらさっきの十万円でセックスすればよかったでしょ!」


「ご飯かセックスどっちかおごってください・・・」


「駄目ですよ!なんでいつの間にかこっちのおごりになってるんですか!駄目なものは駄目です!」


「めがねも駄目ですか・・・」


「駄目です!」


「セックスだけでもお願いします・・・」


「駄目です!」


「お願いします・・・お願いします・・・」


そこまでして頭を下げるくらいなら働けよと思っていたスタッフはホームレスにある提案をした。


「だったら、あなたの段ボールハウス燃やされてもいいですか?」


それくらい言えばあきらめるだろうと思っていた。しかし、そんなスタッフの期待もむなしくホームレスからは意外な答えが返ってきた。


「いいですよ・・・」


スタッフは戸惑った。


「いいんですか!?」


「はい・・・」


「家を燃やされてまでめがねが欲しいんですか?」


「はい・・・」


一瞬その気持ちに押されそうになったスタッフだが、ふとあることに気づいた。家を燃やされてまで欲しいめがねなら一番に買いに行くはずではないか、どう考えたって嘘をついている。そう思ったスタッフは何も言わず嫌がるホームレスからめがねを取り上げ店に返しに行った。

ホームレスは取り上げられためがねを寂しそうにただ見つめていた。


スタッフは段ボールハウスに戻ったホームレスに今日の感想を聞いた。

なんだかんだ言ったわりにはスーツ、靴、めがねとビジネスマンらしい真面目な買い物をしている。

きっと変われるはずだ、スタッフもカメラマンもみんなそう思っていた。


「一時間買い物してどうですか?気持ちは変わりましたか?」


「はい。変わりました・・・」


「じゃ、今のホームレスという生活やめますか?」


スタッフのその質問にホームレスは何の迷いもなくこう答えた。


「やめません!」


その場にいたスタッフたちは唖然とした。


「気持ちは変わったんですよね?」


「はい。気持ちは・・・」


「今の生活はやめますか?」


「やめません!」


やけにその口調だけ強かった。その口調にスタッフはそれ以上何も言えず、もうこれ以上話しても無駄だと思ったスタッフは撤収を始めた。


「一時間に十万円使ってもホームレスは変わらない」


そのテロップだけが悲しく映し出されて番組は終了した。

この番組を見てからというもの、僕は元々嫌いだったホームレスを益々嫌いになった。彼らは変わる気はまったくない、そしてそんな考えの人間はホームレスになるしかないのだ。

一体、ホームレスは何を考えて生きているのだろうか、僕がそう思ったところでホームレスが減るわけはない。

今は高齢化で年寄りが増えてくる、こんな状況に僕は環境破壊以上の脅威を感じていた。本当に日本はこれでいいのだろうか。

そして少なからず自分の父親がホームレスでないことに安心していた。


少し辺りが暗くなってきた頃、気がつくと水門の下にいた老人はいなくなっていた。

きっとあの老人も何も考えずに生きているのだろう。きっとそうだ。

この先、僕は今まで生きてきた倍以上生きるだろうが、不安はまったくなかった。ホームレスになんてなりたくない。いや、なるはずがない。

僕は自分が絶対に成功すると言じていた。こんな所でホームレスを見ている場合ではない、僕の夢は「大物」なのだ。

一番星にそう誓っていた。





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