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旅立ちへの序章①


それから何年か経ったある日。

高校生になった僕は一人海を見ていた。僕の家の近に水門があり、小学生の頃はゴカイ(みみずみたいな餌)を買ってはよくはぜ釣りをして遊んでいた。でも今は水かさか減り、魚の姿もほとんど見えなかった。


小学生の時から数年しか経っていないのにもう景色は変わっている。テレビのニュースでは温暖化による環境破壊が取り上げられていた。生き物が生きていくためにはどういう環境がいいのだろうか、人間以外の動物が住みやすい環境とは何なのだろう、この世界はまるで人間の為に創られているように思えていた。


「人間が神か・・・」


そうつぶやきながら水門の下に目をやると一人の老人がせっせとゴミを拾っていた。そういえば他の場所にくらべてここはやけにきれいだ。

きっとこの老人が毎日ゴミを拾っているからだろう。僕は興味深くその老人を見つめていた。やがて老人は疲れたようにそっと地面に腰を下ろした。無理もない。

そして水門の水を両手ですくい、派手に顔を洗いだした。顔は真っ黒で服もズボンも何処か小汚い老人だった。ゴミを拾ってくれているのだ、環境のために自分を犠牲にしているのだ、無理もない。僕はそう思っていた。


しかし、何かがおかしい。

今度は服を脱ぎだし、洗いはじめた。小汚い服を海で洗ってしまったら環境保護どころではない。


僕はこの時、ふと思った。この老人はただのホームレスで環境のためにゴミを拾っていたわけではない。ただ自分の食料になりそうなもの、生活の役に立ちそうなものを拾っていただけなのだ。

僕はあきれて老人から視線を外した。老人が本当にホームレスかは分からないが、わざわざ話しかけてまで聞くのも面倒だったのでホームレスと勝手に決めつけた。そう思われても仕方のない風貌なのだ。


僕はホームレスという人達に疑問を持っていた。一体何故ホームレスになってしまったのか、そしてホームレスから立ち直ろうとはしないのか、そのふたつがどうしても分からなかった。

『ヒマラヤゆきのした』という花があるのだがその花言葉のようにホームレスにも何か考えがあるのではとないかと少なからず思っていた。 


あるテレビ番組でこんな企画をやっていた。

ホームレスに一時間以内で十万円を好きに使ってもらい、その感覚によりお金に対する執着心が湧き、働く意欲を取り戻させようというものだ。ただし、ギャンブルは禁止。

僕は何気なくその番組を見ていた。 内心、成功してくれればいいなとも思っていた。

狭い段ボールハウスに住んでいた一人のホームレスに企画を話すとあっさりと了解を得ることが出来た。そのホームレスは細身で趣味は絵を描くことだった。スタッフが絵を見せてもらうと意外にもセンスのありそうな独創的な作品で驚いた。 


「上手ですね」


照れながらもどこか自信のある表情でホームレスは答えた。

やがて企画開始時間になりホームレスは買い物に出かけた。行き先をすでに決めていたのか、自然と足取も速かった。

そんなホームレスが最初の買い物に選んだ場所は大手デパートだった。ここには食料や、衣服など幅広く売っている。なかなかいい所に目をつけたと僕は思った。

そしてホームレスが十万円で一番に買ったものは六万円の高級スーツだった。意外といえば意外だったが、悪くない買い物だ。一時間で十万円というのは安いものをたくさん買うより大きい買い物をしたほうが効率がよい。このホームレスは社会復帰するかもしれないと僕は期待していた。

しかし、それからホームレスはデパートをうろうろするだけでなかなか買うものを決められずにいた。その間にも時間は刻々と過ぎていく。ようやくふたつめの買い物を終えたのはそれから四十分後だった。

ホームレスはふたつめの買い物、一万円の靴を握り締めながらデパートを後にした。

もう時間はほとんどない。

ホームレスも慌てて他の店を探し始めた。残り所持金三万円、残り時間十分という中で、次に向かった先はめがね屋だった。

スーツに靴にめがね、まるでビジネスマンの格好だ。この人は社会復帰する、そう確信していた。


やがてめがね屋に入ったホームレスは残り所持金三万円をめがねに費やした。しばらくしてホームレスがめがねを持って店から出てきた。

制限時間内だと思い、満面の笑みで帰ってきたホームレスとは対象的にスタッフの顔は厳しかった。

何故なら制限時間を超えていたからだ。すんなりめがねを買っていれば間に合ったのだが、視力検査をしていたため、予想以上に時間がかかり十五分過ぎてしまっていた。残念ながらめがねは店に返すことになり、スタッフがホームレスにそのことを告げた。


「時間切れです」


「そんな・・・」


「ルールですから」


「お願いします・・・」


「駄目です」


「そうですか・・・」





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