転落④
それからしばらく経った頃、
「誠に申し訳ございませんでした」
この事件について後々の調べにより僕が無実である事が証明され、友人が関わっている暴走族のメンバーが一斉検挙されたのだ。
もちろん主犯格である総長とその弟である友人も警察に捕まることになった。
僕は警察の厳しい取り調べから解放され逆に脅されていたということと警察の捜査不充分により、賠償金を請求出来ることになった。
でも僕はお金なんて要らなかった。そんなもの今の僕には何の役にも立たなかったからだ。僕と両親は警察に何も言わないままその場を後にした。
家に帰ってしばらくは周りに罵倒されながらも必死に説得し、近所の誤解をとくのに一年かかった。それでも言ってくる奴は言ってくるもので、説得しても無理ならもう無視するしかない。
たとえ無実でも、そういう戦いは尽きることはなかった。
そんな光景に僕は耐えきれず、トラウマとして心に焼きつくことになってしまった。人を信じることが出来ず、そのことがきっかけで僕は引きこもるようになっていった。
ある日、布団にくるまって出ようとしない僕に父親はこう言った。
「健次、お前は悪くない。でも人を信じることを忘れちゃ駄目だ」
僕は何も言わなかった。そんなこと僕が一番分かっている。だけど、もしもう一度裏切られたらどうすればいい。周りからも笑いものになる。一生立ち直れない。そう思い続け、頑なに人を信じることを拒絶した。
それでも父親は毎日のように僕を励まし続けた。
「おーい。いつも明るい健次は今日も落ちこんでるのか?でも大丈夫だよな?いつか立ち直るよな?」
「今日はご飯がおいしかったぞ。母さんの作る料理はいつもおいしいけどな。今度、お前の好きなオムライスでも食べに行くか? いい店見つけたんだ」
「あれ?ヨーグルト買ってきたんだけど、どこにもないんだ。健次、知らないか?おかしいな、冷蔵庫に入れておいたのに」
「ペットを飼おうと思うんだ。ほら、ポチがいるだろ?一人じゃ寂しいと思って、メスの犬を飼おうと思うんだ。どうかな?」
「ベットの話なんだけどやっぱりやめた。ただでさえ食費がかかるのにこれ以上余裕ないわ。寂しいけどポチには我慢してもらうよ」
「テレビでも見ないか?最近はおもしろい番組がたくさんやってるぞ。バラエティとかドラマとか動物番組もおもしろいぞ」
「実は父さん昔、犬だったんだ」
毎日、僕の部屋に来てはそんな話をしていた。いつもなら相手にしなかったが、父親のその言葉に思わずつっこんでしまった。
「嘘つけ!」
久しぶりの僕の声に父親は優しく微笑んだ。そして父親は嫌がる僕を布団から無理やり起き上がらせじっと見つめてこう言った。
「おかえり、健次」
気がつけば僕も少し徴笑んでいた。
引きこもりたくて引きこもっているわけではない。ただこうしていないと不安だったのだ。
その気持ちを一番に理解してくれたのは目の前にいる父親だった。
やがて引きこもる事を卒業した僕は久しぶりに太陽の光を体中に浴びていた。とても清々しい気分だった。
それから学校にも行くようになり、初めこそ緊張したがやがてみんなが温かく迎えてくれた。
僕は父親に感謝していた。今までは父親の顔を見ると嫌気がさしていたが、少しずつ慣れはじめていた。
だけど、サラリーマンという仕事には未だに嫌悪感を持っていた。もっと他になかったのか、父親にその話をするといつも黙っていた。
「何でサラリーマンになろうと思ったの?」
「他に夢とかなかったの?」
「後悔はしてないの?」
僕の質問すべてに父親はただ黙っていた。だから、僕はそれ以上何も言えなかった。
引きこもらなくなって数日は家族みんなと仲良く食事をとっていたが、しばらくするとまた父親を嫌っている自分がいた。
どうすれば好きになれるのだろうか、そう考えても答えは出なかった。
父親もまた引きこもっていた僕に話しかけていた時とは別人のように無口になり、何も語らなかった。それが父親スタイルとでも言いのかと思うほどだった。そんな雰囲気にたえられず、やっぱり父親は駄目だと決めつけていた。
自分を救ってくれた人にも関わらず、気づけばまた父親を見下している。
窓辺のアンスリウムが、何かを語るかのように風に揺れていた。
・アンスリウム 花言葉(無言の愛)




