転落②
「健次、ちょっと来い」
友人が僕を奥の暗がりの方に連れて行った。そこは友人が特に仲よくしているグループが集まっている場所だった。
まわりではタバコを吸っていたり、お酒を飲んで酔っ
ぱらってたり、シンナーを吸ってラリっていたりと、まるでテレビで見るようなコテコテの危ない現場だった。
やがて友人はその一角にたまっている仲間を紹介した。
「みんな聞いてよ。こいつ健次。将来大物になりたいらしいんだ。かわいがってやってよ」
その言葉にしゃがみ込んでタバコを吸っていた仲間が不気味に笑った。歳はみんなあきらかに僕より上だ。それでも頭をはっている兄貴のおかげか友人の態度はかなりでかかった。
やがて仲間の一人が立ち上がりこう言った。
「そうか。大物になりたいのか。じゃあコレやるか?」
その人はおもむろにポケットからタバコを取り出し僕に渡した。父親すらタバコを吸っていなかった僕は少し怖気づいた。
「タバコぐらいで何ビビってんだよ」
友人はそう言ってタバコを受け取り、慣れた手つきで僕の日の前で吸って見せた。
「ほら、お前も吸えよ」
正直、吸いたくはなかった。
でもここが何処かも分からない僕は逃げ出すことも出来ず、そっとタバコを口にくわえた。
友人が不気味な笑みで火を点けた。僕は火のついたタバコを静かに吸い込むとやがてすぐに咳き込んだ。それを見た友人は他の仲間と共に大笑いしている。僕はとてもダサかった。
それが嫌で僕は何度も何度もタバコを吸い込んだ。初めこそ咳き込んだが、だんだん慣れてきたのか普通に吸えるようになった。
仲間からも認められ、内心大人になった気分で嬉しかった。まわりを見渡すとドンチャン騒きをしてるグループや、バイクを見せ合って自慢しているグループもあった。とにかくみんな楽しそうだった。
そんな光景を見ると僕も何だか楽しい気持ちになってきた。友人はビール片手にそんな僕を見てこう言った。
「健次、楽しんでるか?」
「まあね」
「なんでここに連れてきたか分かるか?」
「いや」
「お前が大物になりたいって言うからだよ」
「大物と関係あるの?」
「まあ、すぐ分かるさ」
友人はそう言って話を止めた。少し気になったが、それ以上は聞こうとしなかった。
やがて友人の兄貴でもある総長が中心に立って話し始めた。騒がしかった現場もシーンと静まり返っている。
「みんな聞いてくれ。今日は知ってのとおり集会処刑の日だ」
「集会処刑?」
僕は一人で不思議がっていた。集会処刑の意味が分からなかったからだ。ひょっとするとこれが友人の言っていたことなのかと僕はそう思った。
やがて奥のほうから一人の若い男性が数人に連れられてきた。表情は完全に怯えきっている。
僕は嫌な予感がしていた。もしかしてこれからこの人を処刑するのではと思ったからだ。
そしてその予想は見事に的中した。手足をローブで縛られた男性は一人の男に思いっきり顔面を殴られている。一人、また一人と順番に殴っていく。
「次!」
総長のそんな声が響いていた。無抵抗にもかかわらず集会に来ている暴走族達に殴られていくのを見て僕は戸惑っていた。
「どういうことなんだよ」
僕の問いかけに友人は答えた。
「あいつは殴られて当然なんだよ。裏切り者だから」
友人の話によれば、この男性は付き合っていた彼女に子供が出来てお金が必要になり、最走族を辞めて仕事をしたいと言い出した。しかし、彼は幹部だったので簡単には辞めさせてもらえない。そこで彼がとった行動は警察にすべてを打ち明けることだった。
集会がどこで行われているのか、ヤクザとの関係、今まで自分が関わってきた事件すべてを打ち明けた。
しかし、運悪く近くを通りかかった仲間に見つかり、このことが総長に知られ、集会処刑というかたちになった。
もうニ十人くらいだろうか、殴られている彼の顔は見る影がないほど腫れ上がっていた。その彼の髪を引っ張りながら総長は不適に笑っている。
この時、僕は今までにない恐怖を感じていた。人があそこまで段られる姿を見たのは初めてだったからだ。
「ちょっとやりすぎじゃないか?あの人、死んじゃうよ」
僕の言葉に、友人は総長と同じ目をしてこう言った。
「死ぬかもな」
その言葉に僕は凍りついた。こんな兄弟ありえない。僕はここが何処かも分からなかったがこんな所から早く逃げようと思った。
立ち上がった僕は恐る恐るひと気のない所へ歩き出した。薄暗い林の中に身をひそめながら僕は友人の原付のある所にたどりついた。
しかし、エンジンをかけようにも鍵がない。どうしようかと悩んでいたその時、後ろから誰かに声をかけられた。




