大物①
父と子のわだかまりを描いた青春小説
僕がこの話を書こうと思ったのは父親の死がきっかけだった…。
幼い頃から僕は何不自由なく育った。欲しいと言えばたいていのものは買ってもらえた。と、いっても金持ちのぼんぼんというわけではない。ただ親が過保護なだけだ。
女の子二人の後、待望の男の子として生まれた僕は、典型的なわがまま人間に育った。女きょうだいに囲まれたからか若干の気の弱さが目立ち、優しそうな印象を周囲に与えたが、そんなものは話せばすぐに吹き飛んでしまった。
過保護な両親は、欲しいものは何でも買ってくれた。アイスクリームといえば買ってくれるし、お菓子やジュースも思いのままだった。子供の頃、それに甘え、わざとアイスを落としたことがある。あたかも落ちてしまったかのように。母親はため息まじりに困った顔をしたが、やがてアイスを買ってくれた。つけあがった僕はまたわざとアイスを落としてみた。けれど母親は困った顔をするだけで、またアイスを買ってくれた。三度目の正面でもう一度アイスを落としてみた。さすがに今度はアイスではなくげんこつをもらう覚悟をしていたが、それでも母親は黙ってアイスを買ってくれた。もし十回落としていたら、きっと十回買ってくれていただろう。
僕はきょうだいの中で唯一の男であり、あととり息子として期待されていたわけだが、ここでよく考えてほしい。この世の中、長男はどのくらいいるのだろうか。みんながみんな親の後を継いたのだろうか。後を継ぐというのは具体的にどういう意味なのか。姓を受け継ぐとか、仕事を受け継ぐとか、自営業でもやっていれば可能性はあるが、サラリーマンの場合は仕事をどう受け継ぐのだろう。
わがままに育てられた僕はそんなことは考えたくもなかったし、また、理解もできなかった。そもそもこんな人間に育ったのは、父親の存在が大きかったからだろう。