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挿入話 日常SS

(1)辞退の理由


 ――ある日、セレアが皆に一件の相談を持ち込んできた。

 大手テレビ局の番組で、是非Star-lineを取り上げたい旨、番組制作会社から打診がきたという。

「何の番組なんですか? 内容によりけりだとは思いますが……」

 サラが尋ねた。

 当然、皆が知りたい疑問でもある。

 すると、セレアはにっこりと微笑んで

「ええ、タイトルだけ聞けば皆さん、きっと嫌な気はしないんじゃないかしら?」

 そう言って、テレビ局から送られてきた企画書を卓の上に広げて見せた。

「どれどれ……」

 一同、額を寄せ合って覗き込んでみると

『スペシャル特番 世の男性必見! 美人ぞろいの職場訪問!』

 とある。

「……なんだ。俺達にゃ無縁じゃねェか。なあ、ボーズ」

「ですね。あとは女性陣で打ち合わせていただきますか」

 この時点で関係のないサイとリベル、脱落。

「はーいはーいはーい! あたし、賛成でーす! ぜひぜひ、その取材受けましょう! まさしくうちらにぴったりじゃないですか!」

 真っ先に賛成、というよりも激しく賛成したティア。

 セレアは頷き

「他の皆さんはどうですか? 私も、番組の趣旨としては相違ないと思うのですが」

 かく言う彼女自身、名だたる企業の重役子息からプロポーズが後を絶たない美人なのである。とかく指令長以下、見目麗しい女性ばかりの職場であると胸を張っていい。

 ところが。

「あ、あたしパス。こういうの、なんかイヤ」

 基本的にカメラ映りが嫌いなショーコが速攻で辞退すると

「……ショーコさんに同じく。この番組、女性をナメてると思います」

 そういう発想そのものが不愉快らしく、続いてナナが辞退。

 それを聞いたサラは「うん、ナナちゃんの言う通りね! 女性を馬鹿にしているわ!」

 連鎖で辞退した。

 すると

「あー……あたしも、ヤだなぁ……。イリスちゃんと一緒ならいいんだけど……」

 リファがまったく意味不明な理由で脱けた。

「私も、遠慮させていただきますわ。副長と一緒で、テレビとか新聞に出るのは好きじゃありませんの」

 性格的に何となくそういう感じのあるブルーナ、終了。

 残るはユイ、シェフィ、ミサの三人である。

「三人はどうですか?」

 セレアが意見を求めると

「あたしもパスします! 理由はショーコさんに同じ!」これはユイである。

 シェフィは顎に手を当ててうーんと考え込んでいたが

「じゃあ、私もそのようにします。隊長と副長の業務命令とあらば」

 根本的にカン違いを起こしているようだが、ともかく遠慮の意向を示した。

「ミサ、あんたは?」

 すでに面倒くさくなってチェアに踏ん反り返っているショーコ。

 早く決めろ、と言わんばかりに尋ねると

「……あのー」

 そこから十五秒が経過。

「私はですねぇ……」

 さらに十秒が経過。

「ああっもう、どっちなのよ!?」

 ショーコがキレはじめた。

 すると、ミサはほんわかと微笑み

「……ティアちゃんと一緒じゃ恥かしいから……やめますぅ」

 ――結局、セレアは制作会社に断りの連絡を入れた。



(2)本当の強者


 復帰以来、日々操縦訓練に余念のないシェフィ。

 次第に動きがよくなっていくDX-2を眺めていたティアは

「ねぇねぇ。そろそろ、サイさんに決闘を申し込んでみてもいいんじゃない?」

 そんなことを言い出した。

「決闘……ですか……?」

 ミサがほわーんとしている。いや、元からこの娘は「ほわーん」であるが。

 ティアはぐっと拳を握り締めてミサに顔を近づけ

「そーよ、決闘よ! 何でも、ナナさんってば副長に『シェフィの操縦がなってない』とかなんとか、酷いコト言ったそうじゃない。だからあたし達、毎日毎日こうやってハードな訓練を課せられているのよ。許せないと思わない?」

 別に思わない、と言いかけたミサに、ティアはおっかぶせて

「今のシェフィさんなら、模擬戦をやれば絶対に勝てるわ! 思いあがったファーストグループに、目にモノ見せてやるのよ!」

『ちょっ、ティアったら! 決闘なんてやめてよね? 私、まだまだなんだし』

 DX-2を操作中のシェフィが難色を示したが、その時にはもう、ティアはファーストグループの三人をつかまえて挑戦状を叩きつけていた。

「――ってことで、当然、受けて立ってくれますよね? あたし達の挑戦」

「……」

 何の意味があるんだ? といった顔をしているサイ。

 ユイは露骨に眉をしかめて「……ティア、とうとうアタマん中から脳みそなくなったんじゃないですかぁ? 元々バカだったけど」彼に耳打ちした。この娘とティアは何かと反りが合わない。

 ただ、魚のように表情を鈍くして話を聞いていたナナが

「……で? あなた達が勝ったら、あたし達は何をするの?」

 意外にも、一丁乗るつもりらしい。

 ティアはふふん、と鼻息を荒くして「フォー・ラ・ドゥ・パーラーのケーキでも奢ってもらいましょうか? プレミア・チーズケーキを1ホール。どうです?」

 ワンカットであってもとても高いケーキである。

 それは単にお前が食いたいだけだろう、とユイは思ったが、

「……たった1ホール? あなた達一人に1ホールとして、3ホールでいいわ」

 と、ナナは大きく出た。

(え……?)

 無線でやりとりを聞いていたシェフィは顔から血の気が引いた。

 ファーストの三人が、まさか乗ってくるとは思ってもみなかったのである。

 しかし、ティアは思うツボだと言わんばかりの強気な笑みで

「よーっし、約束ですからね! ……で、そちらの条件は?」

「あたし達には何も要らないわ」と、ナナは言いつつ「その代わり、せっかく奢るんだから、そのケーキ、綺麗に完食してよね? 条件はそれだけ」

 やたらと寛大な条件である。

 それが、サイの腕前に対する絶大な自信からきているとみてとったティアは

「オッケー! その条件、のみましょうか。……あとで変更ききませんからね」

「……しないわよ。何があっても」

 ニヤリと笑ったナナ。

「よっしゃーっ! 今日はケーキ、ケーキー! チーズけぇきぃー!」

 ティアは適当なケーキの歌を歌いながら向こうへ行ってしまった。

「いいのか? くだらん喧嘩を売ってくるな、とかにしておいた方が……」

 するとナナは声を潜めて「サイ、ちょっと相談があるんだけど……」

 ――一時間後。

「んじゃあ模擬戦、はじめっ!」

 ショーコの掛け声で、サイVSシェフィの模擬戦が開始された。

 彼女が定めたStar-lineにおける模擬戦のルールはあっさりしたもので、相手を地べたに転がせば勝ち、というものである。

「てーっ!」

 DX-2がストレートに突っ込んできた。

 いつものサイなら、すれすれで左右どちらかにかわしざま足を引っ掛けて倒してしまう。

「やれやれ……。ティアのヤツ、今日は絶対勝ちますなんていってたけど、あんな動きじゃ……」

 どうせ予定通り地べたと仲良くするのはシェフィだろうと、ショーコは大して関心がない。

 が、違った。

 ズシャアァ……

 転がったのは、サイのMDP-0であった。

 DX-2の体当たりを受け止めそこね、後方に重心が寄ったのである。

「あ……あれ? シェフィの勝ち?」

 目を丸くして固まっているショーコ。

「ぃやったーっ! 勝ったーっ! ははーっ! ざまみろーっ!」

 ティアは躍り上がって喜んでいる。

「あら、まあ……」

 オフィスから観戦していたサラもブルーナも正直に驚いたが

「……隊長さんよ。ありゃあ、八百長だぜ」

 隣でリベルがぼそりと言った。

「え? 八百長?」

「ああ。あのボーズ、受けるフリしてわざと後方に重心かけやがった。嬢ちゃんの機体が力押ししたんじゃねェ。あんな直線的動作にやられるようなボーズじゃねェよ。……なァに、企んでることやら」

 ――その夜。

「も、もう、勘弁してくらさい。食べきれまへん……」

「駄目よ。あと半ホールも残ってるじゃない。完食するって、約束でしょ?」

 プレミア・チーズケーキのホールを前に、泣きながら詫びを入れているティア。が、ナナは頑として首を縦に振らない。ティアと同じ運命を背負わされたシェフィとミサは、とっくの昔に倒れている。

 約束どおりナナはプレミア・チーズケーキを3ホール用意した。

 しかし、そのケーキは――パーティ皿よりもまだ大きい、スペシャル超特大サイズであった。そういうろくでもない代物が存在する事を知っていた彼女は、サイにわざと負けさせたのである。

 チーズケーキに殺されかけるという地獄絵図を物陰からそっと覗いているサラとショーコ、それにリファ。

「あれはちょっと……やりすぎよね?」

「まあ、いいんじゃない? あのバカ娘が自分で招いた災難よ。ナナちゃんをナメてかかるからさ」

 すると、泣く泣くケーキを口に運んでいるティアを見ていたリファが不思議そうに

「あれくらい、何でもないと思うけどなぁ……。あたし、前にイリスちゃんと一緒に2ホール半食べたよ」

「……!?」



(3)ブルーナの弱点


「……ふんふんふふんふーん」

 調理室で、機嫌よく鼻歌を歌いながらブルーナが昼食の準備をしている。

 そこへ、ユイが背後から抜き足差し足で忍び寄り――

「わっ!」

「……あらあら、ユイちゃんじゃないの。お昼ごはん、もう少しだけ待ってね?」

 驚いた様子もなく、にこにこしている。

「ちぇーっ。ブルーナさんったら、ぜーんぜん驚かないんですよねぇ」

 つまらなそうなユイ。

「そんなことはないのよ。私だって、驚く時くらいあるんですからね」

 また鼻歌を歌いながら手を動かし始めた。

 思惑の外れたユイは頭の後ろで両手を組んで調理の様子を眺めていたが、突然

「きゃあっ!!」

 ブルーナが悲鳴を上げた。

「え? なになに? どうかしたの?」

 横から覗き込んでみると、ブルーナは味見用の小皿をプルプルと震わせながら

「いや……スープの味があんまりにも美味しかったものだから、つい……」



(4)気の合う友達1


「でねでね、聞いてよぉ! そのお店ったらね、サラダ菜の切り方が細長いの! 食べにくーいって言ったら『サラダ菜の切り方はこうでしょう』とか言うのよぉ! カンジ悪いよねぇ?」

『ああ、M地区西3C4Lのフィールバってお店はですね、玉ねぎをみじん切りにしないでスライスするんですよね。この間、それが歯の間に挟まっちゃって……。彼の前だったからどうしようかと』

「あ! でもね、アタマが痛いときにはぁ、メルン製薬のベレナーゼってお薬がいいのよ! 本当は胃のお薬なんだけど、なぜか頭痛にも効くの! この間サラ隊長に『頭痛に胃の薬飲む人がありますか!』って怒られちゃったんだけどぉ……別にいいよねぇ?」

『へぇ、そうなんですね。私は毎朝出社する前にデログルっていう、のど飴を口に入れるんですよね。ピーラ製菓の飴なんですけど、結構お腹の調子がよくなるんですぅ』

「すごいすごーい! あたしなんてぇ、P地区のデシェンヌっていうカフェがね――」

 ごすっ

「だあっ!! いい加減にしなさい! このバカリファ!」

 ショーコの鉄拳を脳天に食らったリファは、痛そうにさすりながら

「ショーコちゃんたら、ひどいよぉ! あたし、お話していただけなのにぃ……」

 ばこっ

「いったーい! 二発も殴ったぁ!」

「だーかーらー、何べん言ったらわかるのよ! 通信コンソール使ってSTR指令のヒマそうなバカオペレータとお喋りするのは止めなさいって、もう百万回くらい言わなかった!?」



(5)気の合う友達2


「……それで? ふんふん、そうなんだぁ! へぇー。じゃあ今度、あたしも一緒にするね? いいでしょ? ……ほんと? わーい、うれしー! そしたらね――きゃんっ!」

 いきなり飛んできた枕が顔面にヒットし、ミサは沈んでいた。

「あーもー! ほんっとにうっさいわねー! ミサってば、さっさと寝なさいよ! 明日の朝は早朝警備なんだからね! 寝坊なんかしたら、副長に八つ裂きにされんのよ! わかってんの?」

 ティアが怒鳴っている。

 寝つきを邪魔され、キレていた。

「いつまでもクマのぬいぐるみに話しかけてないで、ちゃっちゃと寝なよ! いい!?」



(6)中身

 

 ナナはショーコに連れられ、Q地区にあるスパセンターへとやってきた。

 要は温泉施設である。ショーコがセレアからタダ券を二枚もらい、ちょうど非番になって宿舎棟へ戻ろうとしていたナナを誘ったのであった。

 オープンして間もないその施設はやたらと大きかった。

 温泉をひいたプールもあれば、温泉入浴設備もある。

 二人は日頃の疲れを癒すべく、まずは温泉に浸かることにした。プールではないから、当然水着の着用はない。

「あーっ! やっぱ温泉はいいわねー! 本部舎のお風呂も悪くはないんだけど」

 湯に浸かり、ぐいんと背伸びをしているショーコ。

 その隣でナナが、彼女の胸をじっと見つめている。

 普段制服の胸元を開けっぴろげにしているから割と目に付いてはいるのだが、あらためて無防備な状態を間近で見てみると、かなりのボリュームがある。それに引き替え、ナナは全体的にほっそりとしていて無駄な部分がまったくないから、当然胸にも余計な脂肪などはない。

「……あの、ショーコさん?」

「あん? なにー?」

 彼女が動くたびに湯の中で揺れている大きな胸を指さし

「この中、何が入っているんですか? すっごくおっきいから、いっつも気になるんですよねぇ」

「あ? これ? こん中?」

 ショーコはへへ、と笑って

「……酒よ、酒」

 あまり冗談とも思えないナナであった。 

  


(7)師匠


 ナナが入隊する際、一緒に宿舎棟へと越して来た彼女の祖父・ガイト。

 元従業員で彼の付添婦的な存在のウェラと共に、Star-lineメンバーの中ではすでに知らぬ者がいない。

 ある日、休憩室でのこと。

「ねぇねぇナナさん、ガイトさんって、サイさんの師匠なんですよねぇ?」

 唐突にユイが質問した。

 お茶を飲んでいたナナはちょっと驚いたような顔をして

「え、ええ、まあ……そんなところかしらね。サイにCMDを一から手ほどきで教えたのはお爺ちゃんだから、師匠っていえば師匠なのかしら?」

「じゃあ、じゃあ、ですよ?」

 この娘は隊で最年少なだけに、無邪気なところがある。

「ガイトさんとサイさんが模擬戦で勝負したら、サイさんは勝てないってことですよね?」

「あ、え? お爺ちゃんとサイが……?」

 考えたこともなかった。

 すると、横で話を聞いていたシェフィとリベルが

「あら! それ、見てみたいですね! 師匠と弟子の師弟対決」

「おお、そりゃ面白そうだなぁ。俺も興味あるぞ。――だけどよ」

 リベルはたまにガイトと釣りに出かけることがある。そこで話を聞いていたらしく「でもあの社長、腰やってんだろ? さすがにCMD乗るのはまずいよな」

 と、気遣いを見せた。

 ところが、この会話がどこをどう巡ったか、ガイトの耳に入ったのである。

 数ヶ月というもの療養に専念していただけあって、めきめきと回復していた彼は鼻息を荒くし

「なんの! まだまだサイには負けんぞ! 挑戦なら、受けてたつわい!」

「社長ったら。少しは静かにしていてくださらないと。再発なんかしたらどうします?」

 ウェラが制止したが、ドライバー魂に火のついたガイトは聞く耳を持たない。

「なぁに、このワシをナメるなよ? 歳はくっても、まだまだ現役だからな!」

 ――とうとう、直接対決の運びとなってしまった。

 話を聞いて面白がったショーコが、実施の方向で事を進めたのである。

 ある日の昼下がり、Star-line本部前庭で対峙している二機の人型CMD。

 片やサイのMDP-0、片やガイトが搭乗するDX-2である。

 本部舎玄関前にはStar-lineのフルメンバーが居並び、その中には心配そうなウェラの姿もある。

(ったく、誰だよ。社長をその気にさせやがったのは……)

 コックピットでぼやいているサイ。

 ガイトほどの歳で完全人型機なんかに乗ったならば、自ら寿命を縮めるようなものではないか。

『それじゃあ両者、準備はいいかしら? ――はじめっ!』

 ショーコがハンドマイクで試合開始を宣した。

(やれやれ。無茶させない程度に適当――にっ!?)

 何気なくメインモニタに目をやったサイは驚いた。

 DX-2が、えらい勢いでこちらへ突進してきているではないか。

『サイーッ! いくぞぉーっ!』

「しゃ、社長!? あんまり無理しちゃ――」

 言いかけて、咄嗟にフットペダルを蹴ったサイ。

 彼の意思を受け、MDP-0はスイと後方左へ半回転動作をとった。

 その空いた右半分へ、DX-2の左半身が踏み込んできた。回避しなければ、つかまっていたであろう。

 何やら漂い来る異様な執念を感じ取ったサイは、やや右寄りの後方へさらに重心を預けた。

 一歩、二歩と、ステップを踏むように下がっていくMDP-0。流れるような動きである。

 対するガイトのDX-2。

『なんのっ! それで避けたつもりかぁ、サイっ!』

 荒ぶる巨神のように咆えながら、今度は右半身を踏み出して前へときた。

 機体左右両半身のバランスに気をつけていなければできない動作である。

 予想以上に高度な操縦をやってのけるガイトの腕前に、ギャラリーは唸った。

「社長、なかなかやるじゃねェか……」

「うわっ、これホントにサイさん、負けちゃうかも」

 皆口々に師匠の方を賛嘆し始めたが、ジャッジのショーコは落ち着いて試合を分析している。

(確かに、瞬発では面白い動きをやってくれるわね。だけど、どうかしら……?)   

 スイスイと無理なく逃げていくサイのMDP-0に対し、あとを追うガイトのDX-2にはどこかぎこちなさが残っている。どちらかといえば、翻弄されつつ必死に追いかけている、という具合になるのだろうか。

 ついにガイトは

『こらぁ、サイ! 逃げてばっかりでどうする! 少しは向かってこないかぁっ!』

 歩を停めて挑発した。

(なんとまあ、血の気の多い年寄りだこと)

 サイはややうんざりしつつある。

 間合いは五、六歩といったところだろうか。

 距離を確かめると、サイは機体に後退運動を停止させた。

 ところが。

『はっはーっ! 抜かったな、サイ!』

「!?」

 なんとDX-2は、静止しかけたMDP-0目掛けて突っ込んできたのである。

 その状態から再び回避動作に移れるものではない。

 しかも、両機の間合いはほんの僅かである。

「おおっ!」

「社長さん、もしや!?」

 Star-lineメンバーは固唾を飲んで成り行きを見守っている。

『もらったぞぉっ! サイッ!』

 ガイトが思い切って踏み込んできた。

(――ちぃっ!)

 内心で舌打ちをしつつ、サイは回避を諦め防御動作を命じた。

 MDP-0をとらえようと、右腕を繰り出してきたDX-2。

 その腕をがしりとつかんだMDP-0にとっては、それが手すりのようなものである。

 ブレていた重心をその動作によって安定させると、グイッと一歩後ろに下がってやった。

『……おわぁっ!』

 予期せぬ勢いを付加され、DX-2はバランス制御に狂いが生じた。

 無理矢理手を引かれて転びそうになっているペアダンスよろしく、つんのめりかけた姿勢で停止している。MDP-0が手を離せば、DX-2はその場ヘッドスライディングを演じるしかない。

 頃はよし、と見たショーコは

「……そこまでっ! 勝負あった! サイ君の勝ち!」叫んだ。

 これ以上無茶を続けて機体を壊されでもしたら敵わない。

「……」

 一同、声がない。

 押しに押しているガイトに分があると思っていただけに、意外な結末と映ったらしい。

「――いやはや。サイの進化はワシが思っている以上だったわい。及ばなかったなァ」

 機体の撤収を終えると、いかにも完敗といった様子でガイトが苦笑いした。

 この頑固者の師匠は、素直に弟子の成長を認める気持ちになっていた。

「んなコトでもないっすよ、社長」

 サイはレシーバーを指先でくるくると回しながら「いきなり動きが変化するわ意表衝いてくるわで、ホントに苦戦しましたよ。Moon-lightsの連中なんか目じゃないですね」

 あるいは、本音であった。

 相手の動きを予測しつつも自分の動きを相手に予測されないということが、CMDの格闘戦においては重要なのである。

 が、弟子に持ち上げられたガイトは途端にころりと態度を変え

「はっはっ、意外にワシもまだまだいけるな。そうとなれば、ワシも少しは――」

「社長っ! いい加減になさってください!」

 得意になっていた彼に、ウェラの叱責がとんだ。

「まったく、いい歳なんですから、少しは身体のことを考えてくださいませんと! 若い人達にちょっと認められたからって、図に乗るのもよしてください! ……いいですか? 病院の先生も仰ってましたように、腰は負担をかけないようにするのが一番で――」

 くどくどと、説教が始まった。

 ガイトはぺこぺこと頭を下げているよりない。

 そんな二人の姿を眺めていたナナは

「……お爺ちゃんはサイの師匠かも知れないけど、そのお爺ちゃんの健康を気遣ってきたウェラさんはお爺ちゃんのお師匠さんかも知れないわね。師匠に怒られているようじゃ、お爺ちゃんもまだまだ修行が足りないみたいだわ」

 くすりと笑った。

「そのようね。……でも、お師匠がいるっていうことは、とっても幸せなことなのよ? 師匠がいてくれればこそ、弟子はまっすぐに伸びていけるんだもの」

 相槌を打ちながらもショーコはふと、かつて自分の師匠だった人を思い出していた。

 怒られているガイトを横目に、サイがオフィスへ戻っていこうとすると

「サイちゃん! ちょっと待ちなさい!」ウェラが呼び止めた。

「はい?」

「はい、じゃありません! 社長なんかどうせ無理ばっかりしようとするんだから、止めなきゃ駄目でしょう? 悪乗りに一緒に付き合っていたら、社長の身体が幾つあっても足りないじゃない!」

 今度はサイにも怒り始めた。

「……ありゃあ、ボーズの師匠は社長でなくて、ウェラさんだな」

「ホントね。二人は師弟なんじゃなくて、二人ともウェラさんの弟子、ってのが正しいみたい」

 Star-lineの一同は、その認識で一致をみたのであった。



(8)思い通りには


 ナナには、不思議な直感がある。

 これによってStar-lineメンバーが危難を逃れたり上手く事を運びえたケースは一度や二度ではない。

「ってことは、よ?」

 ショーコは思いついたらしい。

「国家銀行のチョイスカードを買ってナナちゃんに数字を選んでもらえば、当たるかも知れないじゃない?」

 チョイスカードとはいわゆる宝くじのことである。購入者が自分で数字を選ぶことができる仕組みのため、チョイスカードと命名されたらしい。

「あーっ! それ、賛成! いいかも!」

 ここ最近金欠気味のユイが食いついた。

「よしよし、じゃあ早速、チョイスカードを買ってこなくちゃ」 

 すると、どこかで話を聞きつけたらしくリベルもやってきて

「俺も、乗る。思い切って八桁のヤツ、頼むわ」

「オーケーオーケー。……その代わり、当たったら分けてくださいよ?」

「わーってるって。心配すんな」

 ――そんなことがあって、ショーコはチョイスカードを購入してきた。

 三人はナナを呼び出すと

「さあ、ナナちゃん。数字を選んで頂戴。もちろん、賞金はちゃんと分けてあげるから」

 彼女の前にチョイスカードを並べた。全部で三十枚近くある。一枚千エル以上するから、かなり奮発して買い込んで来たことになる。

「……」

 が、ナナは首を傾げたまま、不思議そうに三人の顔を眺めているだけである。

「ささ、ナナちゃんてば。別に、はずしても怒らないから」

「お願いしまーす!」

「頼むぜ! こんだけあれば、どれかは当たるだろ。一枚しか当たらなくても、上手くいけば元は取れるんだし、問題ねェよ」

 一攫千金に目の色を変えている三人は、彼女が選んだ数字ならどれかは当たると思い込んでいる。

 そこに気がついたナナはふうっと溜息をついて

「……駄目よ」

 いきなり言った。

「どうして?」

「だって、どれも当たらないような気がするもの」

「……」



(9)続・思い通りには


「ちぇーっ! 折角、いいアイデアだと思ったのに」

「そういう落とし穴もあったか。いやー、気付かなかったぜ……」

 落胆している三人。

「仕方がないですねぇ。自分で選びますか。黙っていたらタダの紙切れになっちゃうし」

 チョイスカードに数字を書き込んでいると

「あ、何してるのー?」

 能天気なリファがやってきた。

 彼女の姿を見た途端、ショーコに一つの悪知恵が思い浮かんだ。

「何って、チョイスカードよ。あんた、知らないの?」

「うん、知らない」

 ショーコはチョイスカードについてリファに説明してやり

「これってさあ、一枚三千エルするのよ。……でも、あんたやったことないんでしょ? やってみない? 二千エルで売ってあげるからさ」

 それが一枚千エルで売られているということなど知らないリファはパッと笑顔になって

「えーっ! いいのぉ? ショーコちゃん、太っ腹!」

 喜んでいる。

 リベルとユイは

(うまいことやりやがった)

 内心で思ったが、何も言わなかった。

 ――それから五日後。

 当選番号が発表となった。

「あーっ、やっぱダメだったかぁ……。当たりそうで当たらないモンね。二人はどうだった?」

「ダメですぅ……」

「当たんねェよ。八桁なんか、買うんじゃなかったなぁ」

 三人揃ってヘコんでいるところへ、

「ショーコちゃーん!」

 るんるんのリファがやってきた。

 何をそんなに浮かれることやある、と思っていると

「あたし、この間売ってもらったなんとかカード、当たっちゃった! 十万エルだって! 大もうけだよぉ! 教えてくれてありがとー、ショーコちゃん!」

「……」

 そうだった。

 三人はようやく思い出した。

 この頭のネジがとびまくった女のたった一つの取柄は――やたらと運の憑きがいいことだった。

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[良い点] す、凄い キャラが動きまくってる……
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