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「どんな特訓でも堪えるから!」
「そうだな…」
モンモンが考え込む。
「ついに離れの封印を解く時が来たか…」
「離れの?」
道場の離れはリンリンの知る限り、ずっと出入り禁止だった。
「あそこには奥義が隠されている」
「奥義!?」
「正確には奥義を教えてくれるもの…」
「教えてくれる?」
2人は離れの鍵を外し、扉を開けた。
中は思ったより狭く、6畳ほどのスペースにちゃぶ台と液晶テレビが置いてある。
寝そべってリラックスした人間大の木製人形がマンガ雑誌を読み、爆笑していた。
「ギャハハ! 面白い!」
「ええ!? 誰!? てか、何なの、こいつ!?」
リンリンが驚愕した。
「あ」
木の人が2人に気付き、見上げる。
「おい、何だよ! ここはプライベート空間だぞ!」
雑誌を閉じて、立ち上がった。
リンリンと同じくらいの身長だ。
「父さん、何これ?」
「木の人だ。自分で動くタイプの」
「………自分で動くタイプ…」
「ちゃんとアポ取ってくれよなー。風呂入ってたら、どうすんだよ」
「風呂入るの!? てか、どういうこと!?」
リンリンの理解が追いつかない。
「モンモン流では、かつて木の人を使い、修行していた。そのうちの1体に魂が宿ったのだ。それを代々、守ってきた」
「こんなのが住んでるなんて、知らなかったよ」
リンリンが呆れた。
「こんなのって失礼だろ! だいたい何の用だよ!?」
木の人は機嫌が悪い。
「実は…」
モンモンが事情を説明した。
「はぁ? 1ヶ月で、この娘に? だるー」
木の人が、あからさまに嫌がった。
「モチベが上がんないなー」
「父さん、何なのこいつ! ホントに強いの?」
「こいつって何だよ! 大先輩だぞ! それに、おれはめちゃくちゃ強いからな!」
リンリンの眼が細まる。
「何、疑ってんだよ!」
「木の人様、そこを何とかお願いします」
モンモンが深々と頭を下げた。
「えー。ハゲ頭、見せられてもなー。せめて、かわいい娘を紹介してくれたら」
木の人がモジモジする。
「こいつ、何、色気づいてんの?」
「何だよ、悪いかよ! そういうお年頃なんだよ!」
そこで急に、リンリンがニヤッとした。
「いいよ! かわいい娘を紹介してあげる」
「マ、マジで!?」
木の人のテンションがアップする。
「嘘じゃないだろうな? 嘘だったら丸太千本呑ますぞ!」
「1本も呑めないよ! まあ、必ず約束は守るから安心して」
そう請け合ったリンリンが、木の人に見えないように悪い笑いを浮かべる。
「とにかく、あたしに稽古をつけて」
「しょうがねぇな、お前の熱意に負けたよ」
「かわいい娘を紹介して欲しいだけなのに、いい感じの話みたいな顔するな!」
「何だとー!」
2人の取っ組み合いが、ひとしきり終わると木の人が不敵に笑った。
「大船に乗ったつもりで、おれに任せろ。拳法トーナメントで優勝できる程度には教えてやるよ。『自分で動くタイプの木の人の拳法』をな!」
「名前、長すぎじゃない!?」
その日から、リンリンの修行が始まった。
木の人の教えは厳しい。
それでもリンリンは必死に食らいついた。
「FAX、流す! FAX、受け取る!」
「はい!」
「ソックス、脱ぐ! ソックス、履く!」
「はい!」
「ミックスジュース、作る! ミックスジュース、飲む!」
「はい!」
こうして、あっという間に時は過ぎ、いよいよ大会当日。
リンリンの修行は、何とか間に合った。
木の人を含めた3人が、朝から拳法トーナメント会場に向かおうとしたが。
「話が違うじゃねぇかよー!」
木の人が、ごねだした。
「かわいい娘を紹介するって言っただろ!」
「だから、かわいい娘、居るじゃん!」
リンリンが街路樹を指す。
「こんなのワイルドすぎる! これじゃ、シティーボーイにアマゾネスを紹介するようなもんだろ!」
「いっぱい生えてるから、都会的な娘もきっと見つかるよ!」
「やだ! もうやだ! 嘘つかれた! おれ、傷ついた!」
木の人が、道に大の字に寝転がる。
「絶対、行かない! もう騙されない!」
「分かった、分かったから! トーナメントが終わったら、人間のかわいい娘を紹介する!」
「………ホント?」
木の人が、首を起こす。
「ホント、ホント! やだなー、あたしが嘘ついたことある?」
「今、ついてただろ!」
何とか説得して、3人で会場に向かった。
受け付けで、出場手続きを済ませる。
すると。
「何だ、腰抜けじゃないか!」
ジャラジャラが現れた。
「くっ」
リンリンが唇を噛む。
「老いぼれじじいが出るのか?」
「あたしよ!」
リンリンが、前に出る。
「フハハハ!」
ジャラジャラが腹を抱えて笑った。