プライドが邪魔する恋 6
七瀬は私を車から引き摺り下ろすと、無理矢理マンションへ連れ込もうとした。
私はあらん限りの力で抵抗する。
「ふざけるな!」
七瀬の怒声。竦みそうになったけど、こんな所でこんな風になんて……絶対いや!
車が一台入って来た。ヘッドライトが駐車場内を照らし、横切っていく。しめた。ここの住人かもしれない。なら、大声さえ出せば!
「たすっ」
瞬間、私の口が後ろから塞がれた。
「遅いから何してるのかと思ったぜ」
知らない声。私はジタバタしながら相手の顔を見た。
私を後ろから組み伏せる男は、かなり屈強な角刈り。空手をやってる亮太よりも太そうな腕だ。
「暴れるからてこずってよぉ」
七瀬が私にめちゃめちゃにされた服の襟を正す。
「皆待ってるぜ。さっき車入って来たろ、さっさと行こうぜ」
角刈りはそう言いながら、私の口にガムテープを貼ると、ひょいと私を抱えあげた。
七瀬は私の顔を覗きこむ。
「ったく、てこずらせやがって」
その顔は、醜く苛立ちに歪み、私の好きな七瀬さんじゃなかった。
部屋はマンションの一階だったらしい。角刈りが玄関をくぐると、あと二人知らない男が出て来た。
角刈りは乱暴に私を寝室のベッドの上に放り投げる。
私は慌てて上半身を起こし、周囲を見回した。そこには照明やカメラがこっちをじっと見つめていた。
私、どうなっちゃうんだろう。
恐怖で泣き出しそうになるのを堪え、唇をキツく噛み七瀬を睨み付ける。何か他の奴と話してた七瀬は、私の視線に気付き、冷笑を浮かべた。
ベッドが軋んだ。七瀬が膝まづいてベッドに昇ってきたのだ。
一歩近付く毎に、私は一歩後ずさる。
「こないで。大声だすわよ」
そう言う声が震えて情けない。
「どうぞ。ここは防音は完璧だからなぁ。声、出せば出す程こちらは嬉しいね」
七瀬の手が伸びる。私は息を飲み、目を閉じた。
七瀬は、そんな私をからかう様に、指を私の髪に絡めた。
「説明いらないよな? お前だって、俺に気があったんだろ?」
そうだった自分が恥ずかしい。七瀬はうっすら開けた目のすぐ傍まで来ていた。
「初体験に同情して、始めは俺がシテやるよ」
冗談めかして七瀬が私の耳たぶを甘噛みした。途端に言いようもない不快感が、湿った呼気と、ぬめっとした舌の感触と共に背中を這いずり、私は思わず身を強張らす。
「アンタ、なんか……」
強がる唇が震え、涙が頬を伝った。
こんな奴に、こんな所で……。悔しさと恐怖、哀しみ、怒り、色んなものがパンクしそうだ。
「どうせ逃げられないんだから、楽しもうぜ」
ドアが閉められ、鍵がかけられる音がする。男達の粘着質な熱のこもった視線が一気に向けられ、私の中に絶望が生まれた。
「じゃ、回すぜ」
男の声がした。
部屋にいた二人の一方はカメラ、他方は照明を担当らしい。角刈りはいない。見張りだろうか。
絶望した頭は、やけに冷静だ。ただ、体はまだ触られるのを強く拒んでいて、震えが止められなかった。
私のたった一つの体。『初めて』は大切な人とって決めてたのに。
涙がいくつもこぼれ出した。身動き出来ない私の、心と体の精一杯の抵抗の様だった。
「いいねぇ。いつもの小生意気が涙なんて」
七瀬は卑しい笑みを作ると、私にゆっくり近付き、ブラウスに手が伸びた。
私が、汚される……。
私は観念して、ぎゅっと目を固く瞑った。