過去に縛られる恋 18
「え?」
私は耳を疑い、顔をあげる。すぐ傍にある亮太の瞳は、まっすぐに私を見つめていた。
「それって……どう言う……」
戸惑いに私は真意を探る様に亮太の瞳を見つめ返した。亮太は一呼吸おき、今度はハッキリ言い放つ。
「俺は弥生、お前が好きなんだ」
いきなり私の体が大きく揺れ、視界が変わる。
亮太の腕が私を力強く抱き寄せていた。それは夢なんかよりずっと確かで、広くて温かで……。
「兄貴達が一緒になって、俺とお前がただの幼馴染みじゃなくなっちまう前に、告白したかったんだ」
心が震える。亮太のぬくもりが、ううん全てが愛しくて、私はこのまま目を閉じてしまいたくなった。
でも、私の中のシコリが、それを許してはくれなかった。もし、これが本当なら嬉しいに決まってる。でも、納得できない。そもそも亮太が好きなのは……
私は溢れ出そうな想いを飲み込むと、亮太の胸を押して彼から離れた。そっと亮太の胸に手を置いたまま、見上げる。亮太の顔が僅かに曇った。
「あ、そっか。ごめん。お前は五十嵐が……」
「ううん。あれは違うの」
私は首を横に振る。
本気だから、キチンとしたい。うやむやなままは、何も終わる事も始める事もしたくない。
「あれは、ただ私が居眠りしちゃっただけで……。五十嵐君は違うの」
俯いて、呼吸を整えた。鼓動は治まる気配もなかった。私はお守りを握り締めるように、目を閉じて皆の顔を思い出す。
もう一度だけ、もう一度だけ皆の力をちょうだい!
私は顔を上げると、しっかり向き合った。
もう、何も誤魔化さない。もう、逃げたりしない!
「私、さっきわかったの。私は恋って言う名前の言い訳に逃げてた。お姉ちゃんを見てる亮太……から」
「だから、それ……」
私は亮太の言葉を遮る。最後まで伝えたい。
この気持ちは譲れないんだもの。
「私、亮太が好き」
亮太の目が驚きに見開く。
「じゃ、俺達……」
私は首をまだ縦に振れない。
「何?」
もどかしさに亮太の眉が寄せられる。
私は今までのわだかまりを一気にまくし立てた。
「亮太がわからない。だって亮太、お姉ちゃんが好きだったんじゃないの?」
私の言葉に、亮太は困った顔をする。たぶん聞きたくない様な言葉が返ってくるんだろう。そう、覚悟を決めた。けど、聞こえたねは意外なくらい拍子抜けした声。
「俺がいつそんな事言った?」
私は目が点になり口ごもる。
「え? だって」
私は少しムキになる。
「た、確かに、聞いた事はないけど! 小さい頃のバレンタイン。お姉ちゃんのだけ食べないで取ってた。それにバイト始めたのだって、お姉ちゃんの指輪無くしてからだし。だから、指輪はお姉ちゃんにあげるんでしょ?」
亮太は完全に呆れ顔。私を見つめ口をへの字に曲げる。
「他に何かあるか?」
「えぇと……」
私は言い淀んでから
「卯月さん! そう彼女がコイケンに来た時、亮太はお姉ちゃんが好きだって否定しなかったじゃない。それに観覧車よ! キスしてたでしょ?」
そうよ、彼女が出て来て色々悩んだんだもの。
「それはどう説明がつくの? 嘘なの? 亮太の言動はコロコロ変わりすぎ、だからこの告白も素直になれないよ!」
私が全て吐き出し終えると、亮太は涼しい顔で溜め息をついた。
「それで全部だな。俺の気持ちはいつだって揺らいでないし、嘘もついてない。全部お前の思い込みだ」
亮太の目はそらされる事はない。今度は私が話を聞く方だった。