過去に縛られる恋 11
結局、私自身何を直せばいいのか判らないまま、学園祭の前日を迎えていた。
学校全体がお祭り騒ぎの空気に、浮つき始めてる。
ボランティア部では展示物と、売り上げを寄付する名目のクッキーの販売。コイケンではお嬢のアイデアで、フェイスペイントとネイルアートをする事になってた。皆でローテで交代。不器用な亮太は客寄せや整理券配りで…十津川くんも助っ人してくれる事になっていた。
それぞれのクラスはたいてい劇をするから、本当に分刻みのスケジュールだ。
それでも、皆、明日くる騒ぎの予感にワクワクしていた。
私は最後まで残って明日の準備を終わらせ、教室の扉を閉めた。
ふと見ると、遠くで亮太の背中が見えた。
たぶんクラスの準備で残ってたんだ。久しぶりに一緒に帰ってやるか、なんて思って、私が駆け出そうとした時だった。
亮太は誰かに呼ばれて右に振り向いた。
そこに駆けてくる小さな影。……卯月さんだ。
ズキン
観覧車の光景が浮かんだ。
私はそれ以上足を動かす事が出来ず、遠ざかる二つの影を黙って見送るしかなかった。
そうよ卯月さんもコイケンのメンバーなんだもの、応援しなきゃ。亮太と上手くいく様に……。亮太だって、きっとその方がお姉ちゃんを忘れられていいに決まってる。いいに決まってるんだ。
拳を握り締めると、二人に背を向けた。
そこに、一つの影。
「よぉ。準備は済んだのか」
「先生」
先生は帰る所なのか、いつもの白衣じゃなく、スッキリしたパンツスタイルに身を包んでいた。
先生は教室を少し覗き
「いよいよ学園祭だな」
「はい」
私は俯いた。
何かもう、逃げ場が無い感じ。こういうのって、前門の竜に後門の虎って言うんだっけ? って、あ~っ。私、何考えてるの! そんなの考えてる場合じゃないじゃん。何とかしないと、学園祭でコイケン解散って事になりかねないんだもん。
「一之瀬、これから付き合えるか?」
「へ?」
意外な言葉に、私は先生を見上げた。でも、いつもと変わらない先生の顔からは何も読み取れない。
「はい。大丈夫です。……けど」
「なら、ついて来い」
先生はそう言うと、颯爽と風を切る様に歩き出した。
私はまだ、何一つスッキリさせられないまま、とにかく先生の背中を追いかけた。
先生の車は、外見には似合わないけど、内面にはなんとなく合ってる感じの、四駆のゴツい車。乗るのは、お嬢の件以来の二回目だ。
エンジンがかかると同時に、ユーロビートがかかった。意外に秋風にも似合うユーロビートに共鳴するエンジン音。流れるようなドライブに、私達は自然と無口になった。
卯月さんと消えた、亮太の背中が浮かぶ。
亮太はもう、お姉ちゃんの事忘れたのかな? 卯月さんと、あのままくっついちゃうのかな。……きっと、その方がいいんだよね。きっと、ううん、絶対そうだ。なのに、どうしてこんな嫌な気分なんだろう? ううん。私だって、五十嵐君がいる。彼といたら、きっとこんな嫌な気持ちにならない。……はずだ。
車はやがて、知らない大きな駐車場に吸い込まれていった。
隣りには大きな建物。私はそれが何かを察して、先生の横顔を見た。
「先生?」
「着いたぞ」
どうして先生はこんな所に私を連れて来たのだろう?
私は車のフロントガラスから、その白くそびえ建つその病院を見上げた。