過去に縛られる恋 10
観覧車が下につくと、皆待っていた。
亮太は別に何食わない顔で、乙女ちゃんと話してる。
私は暗い気持ちを押し込めて、皆に今日の歓迎会の終わりを告げたのだった。
私は家に帰ってからも、今日一日の事がまとめられないでいた。
先生の結婚
亮太のキス
コイケンの解散
……
「あ~もう!」
私はクッションを抱き締めながら、足をジタバタさせた。何からどう理解したらいいのか、全くわからない。その時、ドアのノックが誰かの来訪を告げた。
「弥生ちゃん。今、いい?」
お姉ちゃんだ。私は顔をあげると「どうぞ~」って、気怠く答えた。
お姉ちゃんはヒョコっと顔だけ覗かせると
「良かった。ちょっと部屋まで来て貰おうかと思って」
そう言って手招きした。
何の用か思い当たらず、取りあえず隣りの部屋に移動する。
入ると、なんだか前よりガランとしていた。
「片付けしてたんだけどね、お洋服も随分あるから、弥生ちゃん、欲しいのないかと思って」
そう言えば、二週間後の学園祭の次の日が、お姉ちゃんの結婚式だ。って、事はお姉ちゃんがこの家にいるのも後わずかって事か。結婚したら、慶太さんと一緒に東京に行く事になってる。会いたくても、すぐには会えない距離だ。
妙に空いた空間は、寂しさを誘っていた。私は並べられた洋服に目を通した。
どれもお姉ちゃんらしい、清楚で品のいい、そして高校生の私には少し高価なものばかりだった。
「弥生ちゃんと離れるの、寂しいな」
お姉ちゃんはポツリと呟いた。そして、私のオデコに自分のをあてた。
「弥生ちゃん、お姉ちゃんはアナタが心配よ。お姉ちゃんがいなくても大丈夫?」
私は苦笑いした。そうだ、お姉ちゃんはいつも優しくて、私の事ばかり心配してくれてた。きっと、亮太もそんな優しい所が好きなんだろう。
そう考えたとたん、観覧車の一件が頭に浮かんだ。私は胸の痛みを隠す様にわざと明るく笑い飛ばすと
「お姉ちゃんこそ、何しんみりしちゃってるの? まさかマリッジブルー? なら贅沢だよ~」
そうおどけてみせた。
あの告白から、初めてのボランティア部の部活。
この日は学園祭のミーティングと、展示物の準備。五十嵐君は私に気を使って、作業中はいつも通り接してくれてたけど……帰りは私の方から声をかけた。
秋の夕暮れは、茜色の空に高い雲がたなびき、川沿いの通学路はススキが風に揺れていた。
私達は堤防に降りて、ゆっくり歩いた。
「五十嵐君、あのね」
私は言葉を探す。五十嵐君は黙って、次の言葉を待っていた。
少し俯きがちな横顔は、緊張に少し固かった。
「あのね私、五十嵐君の事、そう言う風に見た事なくて……」
やっぱり待って欲しいって言うのは、虫が良過ぎなのかな。
私は先生に言われた言葉を思い出していた。今、そう思えないならキチンと断るべきなのかもしれない。
私はいつしか足下ばかり見てた、顔をあげた。
「だから……」
「じゃ、これからは、そう言う風に見てくれるよね」
五十嵐君は私の言葉に自分の声を被せた。彼は私に二の句を継がせず、間髪入れず言葉を続ける。
「なら、答えはまだ出さないでよ。ちゃんと、僕を見てから……答えを、ください」
最後の敬語は、彼の真剣さの表れなのかな。私はなんだか少しホッとして、笑顔になると頷いた。