過去に縛られる恋 7
私達がボウリング場から撤収しようと、シューズを返してる時だった。
「あれ? 萬田じゃん。久しぶり~」
誰かの声がして、皆一斉に振り向く。そこには知らない男の人が親しげに手をこちら向けて上げていた。
でも、萬田って? 人違いかな? 私達が顔を見合わせた時だった。
「あぁ。久しぶりだな」
「えぇ?」
何と答えたのは先生だった。
先生は少し苦笑いをして、両手をポケットに入れたまま男性に歩み寄る。
でも、さっき『萬田』って呼んだよね? 先生は『百崎』でしょ?
私が皆を振り返ると、皆も同じ様に首を捻っていた。どういう事なんだろう?
先生が男性と話しを終えた。
「待たせたな。大学時代の友人だったんだ」
笑う先生は何にもなかったかの様だ。
たまらずお嬢が口を開く。
「先生。さっきの人、先生を『萬田』って」
先生の答えを待つ皆の視線に、先生は肩をすくめてみせた。
そして、少しはにかむと
「あぁ、それ」
逡巡し困った様に眉を寄せる。
「それは五年前の私の旧姓」
「え……どういう?」
私は混乱して、思わず口をさらなる疑問がついて出た。
先生は前髪をかき上げる。そして先生らしくない曖昧な笑みを浮かべると唇をほとんど動かさずに答えた。
「結婚したんだ。五年前に」
それは、全く予想もしてなかった答えだった。
それ以上は、なんとなく聞き辛くて、先生の事はそれ以上詳しくわからなかった。
結婚した、苗字もそのままって、じゃ、旦那さんがいるって事でしょ? でも、今までそんな話全くしなかったし、第一、部が発足する時、先生は上手くいかない恋を自分もしてるっていってたはず。じゃ、どういう事なの?
思わず不穏な風に勘ぐりそうになる思考を、私は無理矢理中断した。それは考えるだけって言っても、やっぱり、先生に悪い気がしたから。
カラオケは案の定と言うか、何と言うか……。お約束通り、お嬢と凛ちゃんのバトルで白熱していた。二人とも上手いんだけど、次々に入れていくもんだから、圧倒されちゃって。だから、私やむっちゃんは早々に食べるに専念する事に決めた。
ふと見ると、亮太は卯月さんと仲良く……かどうかはわからないけど、二人で曲を選んでいた。何だか私はそれを見るのが嫌で、むっちゃんの方を向く。
そうだ、皆に報告する前にむっちゃんに話しておいてもいいかも。
「むっちゃん。私ね……」
私はピラフを食べてたスプーンを置くと、フライドポテトに手を伸ばしてるむっちゃんに声をかけた。
「何?」
「うん」
何から話そう? 私は少し考えてから、まずは結論からって事にした。
「私ね、ボランティア部の五十嵐君に告白されたの」
「へ~。て、えぇ? 告白された!?」
ガチャン
むっちゃんが目をむいて私を凝視。驚いた拍子にお皿が踊った。落ちなかったのは、幸いだけどそのせいで皆の注目を集めてしまったみたい。
私は顔を歪めた。
「何? 告白されたって、何よ!」
歌ってる最中だったお嬢が、マイクを持ったまま聞いて来た。
もはや、ごまかせない感じ……。亮太を見ると、キョトンとした顔をしてた。
「ごめん。弥生」
むっちゃんの声に、私は首を振って
「いいよ。どうせ皆に報告するつもりだったから」
チラリ亮太を見た。なんとなく彼のリアクションが気になる。
「黙っててごめん。私、この間、ボランティア部の五十嵐君に告白されたの」
言葉を無くす皆。狭い部屋には、場違いなハイテンポの曲だけが流れていた。