表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/59

過去に縛られる恋 5

 私は何回瞬きしただろう。時間が経つにつれ、状況が少しずつ輪郭を明確にしていくけど、それに比例して心拍数も上がっていく。

「わぁっ」

 私はかなりの間の後、手を振りほどくと、アタフタと撤収準備を始めた。

 何だ? 何なんだ? え? 私、今、告られた!?

「あの……と、とにかく」

 何がとにかくなんだ? 私。

「今日は帰るね。その、ありがとう」

 って、それじゃ、OKみたいじゃん。

「あ、えと。返事、また今度でいい?」

「いいよ」

 私とは対照的に落ち着いた五十嵐君。

「あ、送るよ。もう外、暗いし」

 五十嵐君が立とうとするのを、私はオーバーアクションで両手を振る。

「いい。いいから。本当に大丈夫。大丈夫よ」

 そして、何とか立ち上がると

「じゃ、また明日」

「うん。明日」

 私はへへって、変な笑顔に変な汗をかくと、その場から逃出した。


 どうしよう、どうしよう……亮太ぁ~!

 私は泣きそうになりながら走った。

 何故か、無性に亮太に会いたくて、気がついたら、空手道場のある乙女ちゃんの家まで来てた。

 私は乱れた呼吸を整えると、道場の方にまわる。

 亮太の顔が見たい。理由はわからないけど、私は何かに急かされる様に彼の姿を探した。

 道場では、社会人の人に混じって、何人か高校生もいた。

「あれ? 弥生じゃん」

 気がついて駆け寄ってきてくれたのは、小さい子を相手にしていた乙女ちゃんだった。私は急に恥ずかしくなって、他の人から隠れる様にして、手だけ振る。

「どうしたの。珍しい」

「あの」

 一瞬迷った。でも、せっかくここまできたんだ、何もしないで帰るのも変だし。私は一呼吸を置くと、乙女ちゃんの背中の向こうにある道場の中を気にしながら訊いた。

「亮太、いる?」

 乙女ちゃんは首を傾げる。

「今日はバイトだからって、早くあがったよ」

「バイト」

 ずんと胸に重いものを感じた。

 バイト、もう行ってるんだ。むっちゃんの一件での怪我だって、まだ完治してないのに……。

「夏辺りから、また増やしたみたいね。バイト」

 乙女ちゃんは、浮かない私の表情に、小さく溜め息を洩らす。

「亮太は一度決めたら曲げないから」

「うん」

「それより、急用?」

 私の気持ちは、何だかすっかりテンション下げてしまってた。

 私は力なく笑うと

「わかんない。今日はいいや。じゃ、明日」

 ポカンとする乙女ちゃんを置いて、私は道場を足を引きずりながら出た。


 私、何、テンパってたんだろ。別に亮太に一番に報告する必要ないし。ってか、何で亮太に会いたかったんだっけ?

 私は私自身に首を捻る。けど、適格な答えはすぐには見つかりそうになかった。

 まぁ、いいや。

「たぶんパニクってたのね」

 私は半ば無理矢理、自分に納得させると、家路についた。


 私はその夜、眠りに付く前に、なんとなくアルバムを開いてみた。色褪せた写真には、まだ幼い笑顔の私達がいた。

 亮太と私と乙女ちゃんは物心ついた時からの幼馴染み。家族ぐるみの付き合いで、三家族合わせて子どもが九人、兄弟みたいに育った。

 亮太の気持ちを知ったのは、小学三年くらいだったかな。

 乙女ちゃんのお姉ちゃん達や私も入れて、バレンタインにたくさんのチョコを貰う中、亮太はカンナお姉ちゃんの分だけ、凄く大切にしてた。

 亮太から直接聞いたわけじゃないけど、それから態度とか見てたら、なんとなくそうなのかなって。

 あれはちょうど半年前だったかな。慶太さんとお姉ちゃんが婚約した日。ちょっとしたミスで、亮太は婚約指輪を、お姉ちゃんの指に治まる前に無くしてしまった。

 バイトはその指輪を買い直す為なんでしょ?

 慶太さんも、お姉ちゃんも、もぅ良いって言ってるのに、馬鹿だから責任感じちゃって。

 私は指先で写真の亮太を弾いた。

 馬鹿だ。好きな人が他の男から貰った婚約指輪を取り戻すために、汗をかき、時間を犠牲にするなんて。そんな奴はアンタしかいないよ。そんな事したって、想いは伝える事すら出来ないのは、自分だって判ってるくせに……。

 また、胸の辺りが苦しくなる。

「っとに……亮太のアホ」

 私はアルバムを閉じると、布団を頭から被った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ