過去に縛られる恋 4
「……さん。……之瀬さ……」
ポンと誰かに肩を叩かれて、私は我にかえった。見ると、困った顔をした同じボランティア部の部員、五十嵐くんが私を見ていた。
そうだ私、今、ボランティア部の部活の真っ最中だったんだ。清掃活動中にゴミ袋を握り締めたまま惚けてしまってたみたい。
「大丈夫?」
「ごめん、ごめん」
私は苦笑いすると、慌てゴミをまとめて袋に入れた。
「あれ?」
周りに人影がない。
「皆、とっくにあがったよ。今日は自由解散だったから」
「そっか」
私はなんだか拍子抜けして、ゴミ袋を括った。それを五十嵐くんが私からヒョイと取り上げる。
「一之瀬さんさ、この後予定ある?」
人の良い笑顔。五十嵐君は同学年で、ボランティア部には珍しい男子だ。あんまり今まで親しくは話した事なかったけど……。
また、ふと亮太の事が頭に浮かんだ。お姉ちゃんの式が近付くにつれ、最近はこんな調子だ。ったく、新しい恋も探せないじゃない。
「一之瀬さん?」
「あ、うん」
私はまたハッとさせられ、苦笑い。まぁ、たまには気晴らしもいっか。
「大丈夫。どっかでお茶する?」
私の笑顔に、五十嵐君も笑顔で頷いた。
五十嵐君との会話は意外に弾んだ。
初めて入ったファミレスで、気がついたら二時間も話し込んでて、外は暗くなりかけてた。
失恋や、亮太の事があったから、最近こんなに気持ち良く誰かとお喋りできたの、久しぶりだった。
「そろそろ帰らなきゃ」
私がそう、鞄に手をかけた時だった。
「一之瀬さん。今、好きな人いるの?」
突然の質問。私はキョトンてしたが、コイケンやってるとこの質問って良くされるんだよね。いい加減、成果でないと、『コイケンの部員になったら一生恋人出来ない』なんてジンクスができちゃいそう。
私は眉を寄せて、笑ってみせた。
「あの……ついこの間フラれたっていうか、好きな人に彼女が出来ちゃったとこ。アハハ。ま、これはコイケンの実力じゃないから。誤解しないでね」
私は頭をかいて外に視線をそらす。
しばらくの沈黙。あぁ、気まずい。きっと、五十嵐君は優しいからリアクションに困っちゃってるんだ。弱ったなぁ……そりゃ、失恋の傷は浅いとは言わないけど、さっさと笑い飛ばして忘れちゃいたいくらいなのに……。
「あのね、五十嵐く……」
「良かった」
「へ?」
私は耳を疑って五十嵐君を見つめた。
五十嵐君は慌て手をふり
「いや、その……一之瀬さんが失恋して良かったじゃなくて……」
意味がわかんない。別に気は悪くしなかったけど、疑問符が私に彼を凝視させた。
五十嵐君は、戸惑いの表情で視線を彷徨わせていたが、その瞳に決意が浮かんだ時、私をまっすぐ見つめた。
「俺、好きなんです」
「何が?」
私はまだ合点がいかない。
五十嵐君は、少し頬を上気させると、私の手を掴んで、ハッキリ言い放った。
「一之瀬さん。俺は一之瀬弥生さん、君が好きなんです。だから、付き合ってください」
「はい?」
真っ直ぐに見つめる五十嵐君の視線に、目が点になって言葉を失う私。
なに? え? どゆこと??
生まれて初めての告白は、突然すぎて、私は喜ぶどころか何一つ反応出来なかった。