過去に縛られる恋 3
「にしてもさ~、ビックリしたよね」
お嬢が癖なのか、ストローを回しながら言う。
むっちゃんも、アイスを頬張りながら頷いた。
私達は今、三人でいつものマックにいる。名目は私の第五回(!)失恋残念会なんだけど、話題はもっぱら新入部員と亮太の事だった。
ちなみに、急だったから新入部員歓迎会は週末にのばした。
あれから亮太は、何にも言わないで「バイトあるから」って部室を出て行ってしまった。
凛ちゃんは、陸上部のマネージャーもするとかで、ガッツリ乙女ちゃん包囲網を広げてて、乙女ちゃんは「今日は陸上部に出ない日だから」って、亮太の後を追うように出て行った。
「弥生は知ってたんだ」
「まぁね」
面白くない。私は口を尖らせて頷いた。
でも、変だ……私。
卯月さんが言う前までは、私自身、同じ様に亮太の事を暴露しようとしてたのに、何であの時、聞きたくないって思ったんだろう。
「本当っお騒がせよね~」
お嬢の言葉に
「でも、二人とも偉いよね。相手に好きな人がいるの知ってて、でも諦めないで、ダメモトでもなくて、ちゃんとぶつかるんだもの」
むっちゃんがぼそっと言った。
私はその言葉に、何か痛みみたいな感覚を覚える。
「コイケンの部員になるなら、応援してあげなきゃね」
むっちゃんの言葉は、失恋よりも重く感じた。
家に戻ると、玄関の前に知ってる車が停まっていた。
私のお腹がキュウって痛くなる。
案の定、玄関には父の物じゃない男物の靴がキッチリ揃えられていた。
「ただいま~」
私はなるべく居間から見えない様に、家に上がると二階の自室に向かおうとした。
「あ、弥生ちゃん。おかえり~」
おっとりしたメゾソプラノの声に、私は首を竦め次いで肩越しにその人物を振り返る。
「ただいま。お姉ちゃん、今日は早かったんだ。お兄さんもいらっしゃい」
「お邪魔してます」
幸せそうな笑顔の姉の傍らに座る、やっぱり幸せそうな顔の男性は私に優しい声をかけた。
そう、これが亮太の好きな人と、その結婚相手で亮太の兄の慶太さんだ。
姉は私より五つ上。
専門学校を出て、幼児教室の先生をしてる。
長い緩やかな髪に、白い肌。大きな瞳は長い睫毛が降りていていつも穏やかに微笑む、妹の私が言うのもなんだけど雰囲気のある美人だ。
私とはまるで違う。
一方、慶太さんも亮太とは全然違うタイプ。
空手馬鹿の亮太と違い、お兄さんは剣道の有段者の上、有名国立大出のエリート弁護士でなかなかのイケメンときてる。私は詳しくないけど、学生のうちに司法試験にパスした秀才らしい。
亮太は幼い頃から姉に憧れ、兄を尊敬してた。
けど、二人の結婚どころか三年も付き合ってたなんて、知ったのは私達二人ともつい最近で……。
なのに亮太は……。
亮太の事を考えると、胸が疼いた。
「ごゆっくり」
私は頭を下げると、足早に自室へ駆け込んだ。
小さい頃は乙女ちゃんと五人で良く遊んだのに、結婚が決まってからは、二人は知らない人みたいだ。
「……」
私はベッドに倒れ込むと、胸のわだかまりを吐き出す様に息をついた。
けど、そんな事でこのシコリは無くなりそうにはなかった。