過去に縛られる恋 2
先生の後ろから出て来たのは、下級生の女子二名だった。
皆、特に乙女ちゃんが言葉なく見つめる中、二人は先生に従い部室に入ってくる。
「ま、自己紹介と一言くらい貰って、席について貰おうか」
事情の知らない先生は、そう言うといつものパイプ椅子にかけた。
二人は顔を見合わせると、私達の知る顔の方が進み出た。
見ると乙女ちゃんの顔が引きつってる。
彼女は乙女ちゃんだけを見つめ、軽く頭を下げた。
「一年。八木沼凛です。その……好きな人を追いかけて、こちらに来ました。ヨロシクお願いします」
八木沼凛。あの乙女ちゃんを振った八木沼先輩の妹だ。あの兄にキューピットを頼んで、ダブルデートに持ち込んだ、見た目大人しそうで、乙女ちゃんの実家まで追っかけする女の子。
「あの……」
乙女ちゃんが何か言いかけた時、その可憐な少女はニッコリ微笑んだ。
「知ってます。四ッ谷先輩が兄を好きだったって、兄を問い詰めて吐かせましたから。でも大丈夫。私、頑張ります」
ハッキリと迷いない自信に満ちた声。本人満足。皆唖然。相手は沈黙。
百崎先生は、さすがに事態を察して、もう一人にふった。
もう一人は、彼女のインパクトに気付かなかったけど、黒髪が綺麗なかなりの日本美人。凛ちゃんが太陽なら、月といった感じだ。
彼女はそそと進むと、やはりじっと誰かを見据えた。
「一年の千堂卯月と申します。私も凛と同じ理由で入部を希望しました」
「え……」
私は胸の苦しさを覚え、彼女の視線の先を辿る。
「五木先輩」
澄んでよく通る声。
見ると、絵本でみる、かぐや姫みたいな美しい笑み。
「私、先輩が好きです」
耳に響いた声に、私は俄かにそれが現実のものと認識出来ないでいた。
二人は固まる私達に、輝かんばかりの笑顔を向ける。
私は部長って立場を忘れて、彼女達、特に卯月さんに思わず口走ってしまった。
「ダメよ。亮太は……」
「どうしてですか?」
卯月さんはあからさまに険しい表情になり、私を見つめる。
「部内の恋愛が禁止とかじゃないんですよね」
「そうなんだけど」
少し攻撃的な言い方に、私は言葉を詰まらせる。
確かに、ダメ……じゃない。でも、亮太は……。
私は下唇を噛んだ。自分でも嫌になるくらい、胸が苦しくなる。
「千堂だっけ」
その時、亮太が立ち上がった。
まっすぐ亮太に見つめられた卯月さんは、微かに頬に紅をさす。
「俺が目的なら、入部は無理だ」
「どうしてですか?」
卯月さんの顔が一変する。対する亮太は、眉一つ動かさなかった。
「俺には好きな人がいる。だから、お前が入部しても無意味だからだよ」
亮太の揺るぎない声は、揺るぎない想いそのものだ。
私は再び襲う胸の痛みに顔を歪めた。だって、亮太が好きなのは……。
「そんなの、知ってます!」
卯月さんが声をあげた。
そして、涙を浮かべた目で気丈に亮太をとらえる。
「先輩が好きなのは」
私は聞きたくなかった。
無意識に目を伏せる。
そう、亮太が好きなのは……。
「一之瀬カンナ。部長のお姉さんで、この秋先輩のお兄さんと結婚する人ですよね」
どよめきに、私は息を飲む。
彼女の言う通り、亮太の好きな人は私のお姉ちゃん。そして亮太のお兄さんと結婚する人。
亮太は、決して叶える事が出来ない恋をしているのだ。